〜第9話〜

〜Fight〜

俺はいつもの様に仕事を終え、軽く買い物をして家に帰ってきた

コ「ただいまぁ〜」

いつもは「お帰り〜」と言ってくれる声はその時だけ無い…

なにかイヤな予感がして…灯りの付いてない真っ暗な部屋を奥へと進んでいく…

奥にクレは居たが…なんか様子がおかしい…身体を丸くて座り込んでいる…
暗くてその表情は見えないが、雰囲気で何か嫌な気がした…

コ「なんだぁ〜居たんなら灯りぐらい付けたら?」
ク「……………」

”カチッ…パッ”
部屋中が明るくなってようやくクレの表情が読めた

何かに思いふけている顔…思い詰めている表情にも読める…

コ「……どうした?なんかあったの?」
ク「う…うん…まぁね」

しかし…クレは話してはくれない…ずっと俯いたままだ
何度も聞いてみるとようやく重い口を開いた…

ク「……『ガイル』に帰れる方法が見つかったんだ…」
コ「えっ…帰れる?」

いつか来る時が来てしまった…のか?

「ただいま」「おかえり」の日常も無くなってしまうのか?

またいつもの退屈な日常が帰ってくる?そんなのイヤだ

コ「一体いつ『奴(ヴァロ)』とそんな事話してたんだよ…」
ク「大体3日に1回だったかな?…いつもコウを抜きにして話してたんだ」
なんだよ…俺抜きで…って…俺は部外者なのか?

一応『同居人』なのに…

コ「それで?クレは…その…帰りたいの?」

ク「本当は帰りたくない…だけど…このままこの世界(地球)に居ても…」
クレはそこで口を噤んだ…

コ「なんだよ?言ってみ…」
ク「この世界に居ても…僕…殺されちゃうだけじゃん?」

彼の口から初めて出た『死』という言葉…
きっとテレビでも見て『民家に降りてきた熊 射殺』とかのニュースを見てしまったんだろう…クレの話は続いた

ク「きっと殺されなくても…『動物園』とか言う所で見せ物にされてしまうじゃない?」
『人と同じく喋る熊』として『○太』と同じ様にテレビで流されるとでも言うのか?

ク「だったら…そんな事、起こる前に自分の世界(ガイル)に戻って普通の生活したいよ…」

たしかに、自分と同じ種族が居る自分の世界が一番良い…だけど…

俺にはクレしかいないんだよ…

コ「そんな事、そうなる前に俺が『力』を使ってでも守ってみせるから、このまま居て欲しいよ」

ク「そんな…幾ら練習してても…力を使いすぎるとコウにまで迷惑がかかるし…それに…コウ死んじゃうよ…」

前にクレから
「力の限界を超えると、使ってる本人の命が危ないから気をつけてね」
という注意をされていたのが頭をよぎる

コ「それでも…クレには俺のそばに居てほしいんだ」
確かに、自分勝手な事だってのは心の中では分かってる…
でも…本音が口から出てしまう…

ク「ゴメン…僕…帰るよ…自分の星に」

コ「いやだ!帰って欲しくないんだよ!」

その時…

”ドン!”
突然クレの力に押でされ、俺は後ろに飛ばされてしまう…

コ「テメー!何しやがる!」
つい頭に頭に血が上ってしまい、普段は言わない荒い言葉を使ってしまった

クレもその言葉にさすがにムカついたらしい…
立ち上がり俺の胸ぐらを掴み…凄い力で俺を持ち上げる…

持ち上げられながらも、俺はクレの顔を見た…

……泣いてるのか?目には薄らと涙が滲んでいた…

俺に顔を見られ、掴んでいた手を話す…

”ドサッ”
いきなり手を離され俺は床に落ちた

コ「痛っ……な…なんで…泣いてるんだよ…」
痛みを堪えつつもクレに涙の訳を聞いてみた…

ク「僕だってっ…本当はコウと一緒にいたいよ…だけど…」
クレは一層涙を流し始めた…

ク「ぼ…僕…コウの…事が…す…好き…なんだよ…だ…だから…もう…これ以上コウに迷惑かえたく…ないんだよ…」
そう言い終えると床に座り込み泣きじゃくってしまう…

俺も好きだが…それはあくまでも『同居人』としてで…
恋人とは違う『好き』という感情だ…

初めて知ったクレの本心…

今までもそういう素振りはあったが…俺が気付かなかっただけ?

コ「ど…どこでも勝手に行けよ…その気持ちは嬉しいけど…その言葉には応えられないよ」
俺も心の中では「俺も好きだよ」とは言いたかったが…

でも…人間同士でないし…種族も違う…ましてや住む世界も違うんだ…
そう自分に言い聞かせた…そしてあえてクレに冷たい言葉で返すしか自分には出来ない…

暫く経ち、2人共落ち着きを取り戻した…

コ「なぁ、クレ」
ク「ん?…なに?」

コ「…いつ行くの…?」

ク「こっちの時間で3日後の夜12時…その時が2つの星が『シンクロ』する最後の時間なんだって…」

『シンクロ』は解らないが、その時がくればもうクレには会えないと言う事は分かった

コ「残りの時間…クレは何をしたい?」

その言葉にクレは「最後くらいは…そばに居て…」と答えた…

翌朝…

俺はバイト先にムリを言ってクレとの残り時間を休ませてもらった…店長にはイヤな顔されたけど…
リュウに事情を話してなんとかバイトを代わってもらった…

クレとの別れまで あと3日…

初めてクレとの遠出…行き先は海…時期は終わったが
海岸端を走ってると、まだサーフィンしている人もチラホラ…

別に泳がなくても、砂浜を歩くのもいいな…

着いたのは人の居なく周りに民家もない所…
俺が落ち込んだときによく来るお気に入りの場所だ
夏の間賑やかだった海の家ももう閉まっている…

クレは初めて目にする海に驚いたり、海水を舐めてヒドい目にあったり…

俺は持ってきたカメラで色んな写真を撮った
クレの初めて海を見て驚いた顔…初めての海水の味に驚いた顔…
慣れない砂浜で転んだ瞬間…色んな表情を撮った…海で水遊びしてる時…

今だけは…別れの事は忘れて楽しみたい…そんな瞬間…

クレとの別れまで あと2日…

その日は昨日とは違い、紅葉の始まった山へやってきた…
いつも来ている夜の顔とは全然違う景色だ…

2人で山の中に入り、作って持ってきた弁当を青空の下で食べてたり…
誰も居ない駐車場でクレに車の運転をさせてみたり…
あの時クレ凄い焦ってたっけ…何回もエンストさせてたし
でも、ちゃんと走らせられた時のクレの表情は…凄い嬉しそうだったな
そこでもクレの色んな表情を写真に収めた

クレが「ねぇ…キスしてもいい?」と言えば、紅葉の中キスをしたり…
種族とかの『障害』が無ければ…本当の恋人になれたのにな…

クレとの別れまで あと1日…

その日はリュウを家に呼び3人でささやかな『お別れパーティー』を開こうとした
俺とリュウは朝から2人でケーキを作った…
当人はまだ布団の中で眠ってはいたケド
俺が作り…リュウがチョコで白いケーキにクレの絵を書いて…
2人で思った通りの感じに仕上がった
クレが起きてくるまでほんの少し部屋を飾り付けして、あとは起きてくるのを待つばかり

ようやくクレが起きてきて、目の前の光景に凄い嬉しそうだ…
初めて見るケーキ(今まで買わなかった)も、凄く喜んでくれたし
リュウが持ってきた映画を見たり…

見終わって、リュウが帰ったあと…時計を見る…

クレとの別れまで あと数時間

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