どこの家庭にもアンドロイドやサイボーグが一家に一体いる時代になり始めた。
 そして、この無精髭を生やした不摂生気味の彼にも。

「お待たせしました。こちらへどうぞ」
 白衣を着た女性が個室のドア越しに彼を呼ぶ。
「……はい」
 個室に入ると目の前には、循環機と思われる機械に大きめのパイプで繋がれ目を閉じている熊型のサイボーグが吊り下げられていた。
「こちらでお間違いないでしょうか?」
「思っていたより大きいですね……」
 大型のアームに吊り下げられている事を考えても、彼よりも十数センチは高いだろうか。
「寸法やモデルはお客様のご要望通りだと思いますが……大丈夫ですか?」
 女性は少し不安と心配が入り交じった声で彼に確認をする。
「え、ええ。この状態で思った以上に高く見えちゃいまして……少し驚いただけです」
 ポケットからハンカチを慌てて取り出し、汗ばんだ額を拭う。
「そ……そうですか。では起動しますね」
 そう言いながら彼女は少し背伸びをし、吊り下げているサイボーグの首筋の窪んでいる所を軽く押す。
 繋がれていた機械の作動音が徐々に低くなる。 と同時にサイボーグの目がゆっくりと開かれる。
「MOD-BR2948-3M52JP 制御そふとうぇあノばーじょんハ6.5 おーなーハ未登録デス」
 第一声は電子音と生き物の声が混じったような声色だった。
「先程受け取り前の案内時に聞いて頂いた声色を、今からインストールします」
 白衣のポケットから小さなカードを取り出す。
「今から……ですか?」
「大丈夫です。数秒で音声合成システムへのインストールが終わりますので……少々お待ちくださいね」
 軽く言いながらカードをサイボーグの目へ向ける。コードか何か書かれているのだろうか。
「音声のインストール完了。これで宜しいでしょうか?」
 一瞬で変わったその声は機械さらしさがない、野太く丸みのある男性の声だった。
「い……YES」
 これが『熊らしい声』と言うのだろうか。見た目の声だったので女性よりも先に返事をしてしまった。
「で、では、アームから外すしたりするので一旦スリープさせますね。 コードSLを実行」
 抑揚のない女性の声と同時に目を閉じ、男は一旦部屋の外へ出された。

 数十分後
「では、どうぞ」
 再び呼ばれ、男が部屋に入る。
 そこには黄色い虹彩の目を見開き、簡素な服を着せられたサイボーグが立っていた。
「事前に説明した通り、初期不良が無いか確認していただき、お客様自身でアクティベーションをお願いします。こちらがアクティベーションコードが書かれた書類です」
 厚めの封筒を渡され、サイボーグと共に家へ帰った。


 マンションのドアを開け、誰もいない真っ暗な部屋に明かりを灯す。
 2LDKの部屋の片側にはサイボーグ用の機材が置かれていた。
「お前はそこ部屋な。ところで飯は食うんだっけ?」
 男が部屋を指差しながら今後の事を聞く。
「少しは飲み食いは出来ますが、人間みたいに毎日は摂りません。三日に一回程度、生体用の栄養アンプルを補充するだけです」
 機材の横にアンプルケースが数箱置かれていた。
「そ、そうか。一応布団は敷いておいたが……寝るのか?」
「寝ると言う概念がよく解りませんが、エネルギー消費量を最小にしてスリープに近い状態なら出来ます」
 少し困惑気味の表情で応える熊。
「まあいいや……俺は飯食べたら寝るから、お前は大人しくしてなさい」
「かしこまりました」
 サイボーグの熊は、人口脂肪を纏わせた腹を揺らしながら割り当てた部屋へ行った。
 家の敷居が低すぎるのか、頭を派手に淵にぶつけながら。

 翌日。日も真上に昇った頃。
 男は机に向かい、渡された書類や説明書に目を通していた。
「風呂は皮膚や毛が細胞ベースだから入れる……あとは……あの機能か。これはアクティベーションしてからだな……」
「何か調べ事ですか?」
 急に男の視界に熊の顔が現れると、大声を上げながら飛び上がる。
「お、お前! 驚かすなよ……音を立てずに部屋に入ってくるな!」
 心臓の早くなった鼓動を抑えながら熊を叱る。
「申し訳ありません……」
 小さな耳を垂らし、俯きとしながら謝る。
「も、もういいから。次はノックぐらいしてくれ」
「かしこまりました」
 頭を垂らしながら男の部屋から出て行こうとした時だった。
「あ、ちょっと待て。ちょっとそのベッドに腰かけてくれないか?」
 部屋の隅に置かれているソファベッドを指差す。
「はい。かしこまりました」

 男は1枚の紙を片手にサイボーグの横に座り、熊の顎下を触る。
 毛に包まれた人口皮膚の下に一カ所だけ窪んだ場所を見つけると、その部分を押す。
「アクティベーション開始」
 同時に熊の虹彩が黄色からオレンジ色に変わる。
「アクティベーションコードCDL3A-HZ10B-T0F2Y-RI0S5-XPIFE-ZM48を実行。 MOD-BR2948-3M52JP、ケアム、佐久 明弘、デフォルト、三原則を復唱」
男は時々書類に視線を移しながら、書かれている内容を読み上げる。
「第一項 我々アンドロイド・サイボーグは人間に害を加えてはならない。また、その危険を看過する事によって、人間に危害を及ぼしてはならない。 第二項 我々は人間に与えられた命令に従わなければならない。ただし、与えられた命令が、第一項に反する場合は、この限りではない。 第三項 我々は前の一項二項に反する恐れが無い限り、自己を守らなければならない。 復唱完了。データセンターとの通信を行いますが、宜しいですか?」
「YES」
「承認。アクティベーション処理を終了します」
 男はその言葉と同時に顎下から指を離す。その瞬間熊の目の色が焦げ茶色に変化した。
「アクティベーションは正常に完了しました。改めてこんにちは。佐久明弘さん。僕の名前はケアムです」
 今どきの小学生でもやらないくらい深々と頭を下げるケアムと名付けた熊。
「ああ、よろしく。いろんな意味でな」

 あれから二週間が経った。
 僕はマスターから言われた通り、家事の一切をこなしていた。
「ただいま」
 玄関のロックが外れる音と同時に、仕事で疲れたマスターが僕の視界に入る。
「お帰りなさいませ! ご飯とお風呂の用意、出来ていますよ」
 いつもであれば殆ど言葉を交わさずにマスターは寝てしまう。
「今日、仕事でお前と同型に会う事があってな……お前とは違い無愛想だったよ」
 服を脱ぎながら珍しく話しかけてきた。
「お前の事を話したら驚かれた。君以外は彼らは自身の『機能』しかできない」
 僕らの『機能』とはなんだろうか…… 思い出そうとしても、ファイルの一部が壊れているのか思い出せない……思い出せない。
「どうした? ケアム。正直に話せ」
 気づけば頭を抱えて唸っていたらしい。
「僕の機能って……なんでしょうか。ファイルが壊れているようで思い出せないんです」
 嘘をつくと言う事が出来なかったので、正直にマスターに話した。
「お前、何回も部屋の淵に頭ぶつけてたよな? まさかそれでポジトロン脳の何処かに故障が……いや待てよ。」
 マスターは一人でぶつぶつと言っている……まさかこのまま引き取られてスクラップですか?
「ん? お前をメーカー修理に出すか考えていると思っているのか? 他のシステムは無事なんだろ?」
 マスターが独り言を言っている間にシステムチェックは済ませたけれど、欠落した記憶の一部以外は何も異常は無かった。
「唯一の機能の内容を忘れた代わりに個性が生まれた。これはむしろ良い事なんじゃないか? 他のやつらはどうも物足りない。やれても不自然なんだ」
 良い事なのだろうか。僕には人間の思考プロセスがよくわからない。
 確かに笑ったり、話をしている事は楽しい。他の子にはそれが出来ない?
「まあ……あれだ。時間も時間だから、この事に関しては明日話そう。明後日は休みだから遅くまで話しができる」
 マスターは席を立ち、いつも通り自室へ向かった。
 僕自身の事は気になってはいるが、今これ以上聞くと回路が焼き切れそうな気がした。

 日が昇り茜色の空を引き連れ地平線へ沈み、空も部屋も暗闇に包まれた。
 一日中ずっと昨日の事を考えてしまい、何一つ手につかなかった。
「はあ……」
 僕は何の目的で作られたのだろうか。部屋の隅で考えれば考える程ため息が止まらない。
「ただい……なんで電気をつけないんだ?」
 マスターが帰ってきたらしい。
「おかえりなさいませ……」
「ケアムどうした? ずっと昨日の事を考えていたのか?」
 僕の部屋の電気をつけられると目の前にマスターの顔があった。
「お、お前……泣いていたのか? と言うか涙出るのか!?」
 目の下を指でこすってみる。冷たい……これが涙?
「と、とりあえず俺はシャワー浴びようと思うんだが……たまにはお前も一緒に来るか?」
 今までは一人でシャワーを浴びていた。人間の様な毛こそ落ちないけれど、全身の体毛を乾かすのに時間がかかる。
「いいんですか?」
「ああ。一人にしていたら何かしそうで俺が不安だ」

 いつもは広い浴室は、大きな体の二人が入ると狭く感じる。
 初めて見るマスター……いや、百パーセント天然の細胞で出来ている体毛が殆どない人間の体。
「そんなに見ないでくれないか。洗いにくい」
「す、すみません!」
 急いで壁の方を向く。 と同時に込み上げる感情が分からない。
「もういいぞ。次はケアムの番だ」
 水音が止まると同時にマスターの声が浴室に響いた。
「お前、よく見ると結構大きいんだな」
 湯を張った浴槽に体を浸けながら僕の体をまじまじと見る。
「え? な、何が大きいんですか?」
 体が大きいのは初めてマスターと会った時から言われているけれども。
「何がって……ここさ」
 浴槽から手が伸ばされると、僕の体に今まで体感した事の無い感覚が走った。
 マスターが掴んだ先を見ると……マスターの股間についている物と同じ物を掴まれていた。
「初めてお前のチンコを見たけれど、平常時でも結構いい大きさだな」
 マスターが僕のそこを揉む度に体に妙な感覚に包まれる。
「ちょっ……マスタ……やめ……」
 揉めば揉むほど、僕のそこが今まで見た事が無いくらい変化しはじめた。
「お前、大きくなってきたんじゃないか?」
 自分の下腹部を見ると、今まで見た事が無いくらい硬い棒の様になっていた。
「なんですかこれ! 僕のからだ、壊れたんですか!?」
「そう驚かなくて良い。これがお前の『機能』の一部なんだから」
 機能の一部? この大きくなった僕の……チンコと呼ばれた物が?
「言う前に早く体を洗え。風呂から上がったら身をもって知るようになる」

 浴室から出る頃には元の大きさに戻っていた。
 マスターに体を拭かれながらも何処か熱い。熱暴走でもしそうな勢いだ。
「よし、出ていいぞ」
 軽く水分を拭かれた程度でいいのだろうか?
 出入り口に置いてあった服を着る。少しサイズがキツい。
 マスターの部屋に通され、ベッドの上に座らされる。
「ケアム。これから何されるか怖いのか?」
 一通りの感情はプログラムされている。それでも無意識のうちに手が震えていたらしい。
 震えていた僕の手をそっと握り、空いた手を僕の背中にまわす。
「マスター……僕を壊さないで……」
「大丈夫。お前は俺の……」

 僕の視界が何かで塞がると同時に、唇が温かい感触に包まれた。
 数秒後、後ろへ倒される感覚と塞がれた物がマスターの頭だと気づいた。
 僕のマズルから離されたマスターの唇。
「いきなりで驚かせたかな?」
 天井を背景に少し意地悪げに笑いかけるマスター。 何が起こったんだろう。
「ケアム、お前『セクサロイド』って言葉は聞いた事あるか?」
 マスターの言葉に何処か刺さるような違和感を感じた。
「サイボーグの人間寄りな存在……とでも言っておこうか。人間同士の様にセックスは出来るが、いくら中出ししても妊娠する事はない。 要は性欲の捌け口だな」
 マスターの顔がだんだん歪んでくる……怖い。
「俺の精液でお前の中を満たしても、病気も妊娠にも怯える事は無いんだ。お互いにな。それに……お前は俺が一番ぐっと来るように造ったんだよ!」
 そう言いながらマスターは服の上からゆっくりと僕の体を撫で回す。
 胸……腹……そして使えもしない生殖器に模したもの。
「マスター……やめてください……お願いだから……」
 マスターは何も言わなくなった。
 僕の上半身を起こし、後ろに回り込むと僕の股間と胸を同時に揉み始める。
「ほら、見てみな。ケアムのチンポ、ズボンの上からでも大きくなっているのが分かる様になったぞ?」
 無理矢理視線を下に向けられると、ズボン越しでも先程より遥かに大きく膨張した僕のチンコ。
「あっ……やだ……お願いしま……めて」
 再び上半身は再びベッドの上に倒された。
 薄ら笑いを浮かべたマスターがベッドから降り、僕の服に手をかけたかと思った瞬間……服は僕の悲鳴と共に激しい音を立てながら一気に引き裂かれた。
「いい眺めだね。 あ、いくら叫んでも防音だから、誰も助けになんか来ないよ?」
 人間同士であれば殴ってでも逃げられただろう……それができないのは、ロボット三原則と言う強固なプロテクトが僕達サイボーグやアンドロイドを縛ってるからだ。
 今の僕に出来る事は……恐怖に耐えながらマスターの命令を聞く事しか選択の余地はなかった。
 ズボンも引き裂かれ、露になった僕の全て。
「じゃぁ……いただきますかね」
 マスターは露になった僕の下半身に顔を埋めると同時に、浴室で感じた妙な感覚以上の衝撃が体に走った。
 驚いて顔を起こしてみると、僕の意に反して大きくなったモノをマスターが咥えこんでいた。
「やっ……止めて……あっ……」
 どれくらい続いただろうか。何をしたら良いのか分からないうちに、体の奥底から何かが込み上げてきた。
「からだ……熱い……あっだめ!」
 何かが吹き出る感覚と、身体中を電気の様な波が駆け巡る。
 吹き出る感覚と同時にマスターの動きも止まる。
「ま……マスター?」
 僕のモノから口を離しこっちを見る。口元が白い液体で汚れていた。
「お前……イヤがる割に沢山出したな……」
 その白い液体は、僕が出したの? などと聞く前にマスターはそのまま僕のマズルに口をつけた。
 僕の口に流し込まれるドロドロした僕の苦い液体とマスターの舌。
 涙を滲ませながらも、マスターの愛撫を受け入れてしまう。どこか裏切られた気分だった。

 マスターの口元を綺麗に舐めとると彼は離れると、僕の両足を持ち上げ下腹部へ顔を埋める。
 ただし、埋めた場所は先程精液を出した器官ではなく、人間が排泄のみに使う穴を模した場所だった。
「ここからの眺めもいいな。お前の小さな尻尾もケツの穴も全て見える」
 そう言いながら、申し訳程度に付いている尻尾を掴まれる。 同時に警告音と共に体に力が入らなくなる。
 マスターはそんな事どこ吹く風か、暫く僕の体を眺めると再び穴に顔を埋め舐め始める。
 妙な感覚だった。体の奥がムズムズするような、どこか自分が自分で無くなる様な感じがする。
「あっ……マスター……僕、壊れそうです……」
「そんなヤワな作りしてないだろ。もしも感覚システム切ったら破壊するからな?」
 尻から顔を離すとマスターが短く吐き捨てるように言う。
「お前らの場合、慣らす必要は無いみたいだな。よく出来てるとでも言うべきだろうかな」
 力も入らずに頭で「慣らす? 何を?」などと考えてる間にも、マスターが着ている服を脱ぎ始める。
 年相応なのだろうか……厚めの脂肪に包まれた体と、浴室で見た時とは違ったマスターの大きくなったチンポ。
「お前、自分がセクサロイドだと分からなくても、これを舐めるくらいは分かるだろ?」
 そう言って僕のマズルの前に、粘液で濡れたマスターのモノを向ける。
 作り物の心……その中ででも「もうどうにでもなれ」と思い、マスターの熱い棒を舐める。
「おう……やっぱり舌テクも凄いな。このままケアムの口の中でイッちまうのもいいかもな」
 息を荒げながらより大きな快楽を求め腰を前後に動かし、太くなった逸物がまるで蛇の様に僕の喉の奥を突く。
 苦しい……涙と人工胃袋から込み上げる吐き気に耐えながら、マスターが達するのを待つ。
「だがな……」
 急に口の中の物を引き抜かれると、どこか寂しさを覚えた。
「そんな顔するなよ。これからちゃんと俺用にセットアップしてやるよ」
 力が抜けきった僕の両足を再び持ち上げ、マスターの肩に乗せる。
 同時に僕の穴に熱い物が当たる。
「ケアム……お前は、俺の『物』だ。他の淡々と性処理をする奴らとは違う……心があるなんて最高に燃えるだろ!」
「うっ……があああ! 痛い! 痛いよ!! マスター助けて!」
 マスターの熱い逸物が僕の中に侵入する。 ポジトロン脳の中で大量のシステムアラートが鳴り響く。
「助けテ! 痛い! もう……とメて……オ願い」
 いくら叫べど、マスターの熱いものがどんどん中に侵入してくる。
「うるせえな……少しは静かにしてろ」
 マスターの手元にあったズボンのベルトを、口輪のように僕のマズルに縛り付けられた。
 その頃には根元まで入ったのだろうか……尻臀にマスターの熱い体温を感じる。
「やっと静かになったか……お前の中、誰の中よりもすげえ気持ちいい……」
 僕の中に侵入した熱い棒が、マスターの脈に合わせてびくびくと動く。
「ケアム」
 数秒前とは違う……いつも通りの声で僕の名を呼ぶ。
「お前を……乱暴に扱ってすまんな」
 マスターは色々な心情が混じったような笑顔を僕に向ける。
 同時に彼が腰を動かすと、僕の体内の全てが抜き取られるような感覚を覚えた。
「ん……んんっ……んぐうう……」
 再び侵入してくる熱いもの……その繰り返しが何分も続いた。
 二人の結合部からぐちゅぐちゅと色々な液体が混じった音が聞こえる。もう何が起こっているのか分からない。
「ケアム、お前のあそこも最高だ。もうイッちまいそうだ……」
 汗だくになりながら腰を降り続け、最奥を突く度に僕の人工肉がたゆんたゆんと揺れる。
 そして、それは一瞬で訪れた。
「ケアム! お前の中で出して……ううっ……」
 腰を一番奥まで打ち付けられ、マスターの逸物が膨張する感触があった次の瞬間、僕の中に放たれる熱くドロドロした液体……
 恍惚の表情を浮かべながら体を震わすマスターを、下から涙で歪んだ視界で見つめた。

 一本の肉棒で結合したままマズルにつけられていたベルトが外される。
「マスター……」
 それ以上は恐怖心から何も言えなかった。
「ケアム……すまない……」
 マスターの腰が先程よりもゆっくりと再び動き出す。
 さっきのような彼に対する怖さはどこかへ消えていた。目を閉じながら小さな声で「すまない……」と繰り返していたのが聞こえた。
「マスター……ああっ……ん……マスター……」
 マスターが出した精液で滑りがよくなったのだろうか……時に激しく動かれた時でも痛みは無かった。
 結合部を中心に広がる天にも昇るような感覚。自然と声が漏れる。
「んはあっ……マスター、もっとマスターの熱い物が欲しいです……」
 僕の声が聞こえたのか、呼吸を荒げながら少し微笑みかけてくる。
「ケアム……俺とい、一緒にいけるか?」
「もっと……マスターを感じていたいんですが……駄目でしょうか?」
 ずっと繋がっていたい。そう思えるようになってきた。僕の股間も自然と大きくなってくる。
 何かに取り憑かれたかのように涎を垂らしながら喘ぎ、マスターを感じる。
「ケアム、すまん……そろそろ限界みたいだ……んあああああっ!」
 二回目だと言うのに最初と変わらない熱い液を僕の中に放つ。同時に僕も射精する。
 汗だくで呼吸を整えながらマスターが自分の肉棒が抜き取ると、そこだけ空洞が空いたような感じがした。
 同時にマスターの精液が穴からドロリと溢れる感覚。
「ケアム……風呂入ろうか」
 その言葉にはどこか後ろめたさを感じた。

 浴槽に湯を張り、マスターは体を洗い汗を流す。
 マスターが浴槽に入った事を確認すると僕も体を洗い……M字に足を開きマスターが中に出した部分を洗う。
 蓋を無くしたマスターの精液がドロドロと穴から漏れ出す。
「んっはあ……マスター……お願い見ないで……」
 まじまじとその部分を見つめるマスターに懇願する。
「いや、俺はちゃんとケアムを見ていたい。気にせず続けてくれ」
 興味本位で見ているような表情ではなく、真剣な目をしていた。
 穴から精液を指で掻き出す時にも嬌声は漏れてしまう。
「いやらしいな……いや、これ以上はやめておこう」
 頬を染めながら半勃起の下腹部を抑え、湯船に深くもぐるマスター。
 僕も恥ずかしさを覚え、最低限の処理だけ済ませると、マスターが待つ湯船に一緒に浸かる。
「マスター」
 水音だけが響く浴室。僕は無音に耐えきれず、マスターに質問をする。
「なんだ?」
「僕に二度目の挿入をしている間、ずっと『すまない』と呟いていましたが、それは僕に対してですか? 過去にあった何かに対してですか?」
 僕の質問に顔色が少し変わる。
「お、お前に対して言ったんだ。何を勘ぐっているんだ?」
 言葉を詰まらせながら慌てふためくマスター……
「別になんでもないです……変な事を聞いて申し訳ありません」
 そして二人の間に再び訪れる沈黙。 マスターの呼吸音が早い。

 その状態が十分くらい続いただろうか。
「昔な……」
 沈黙を破ったのはマスターの方だった。
「俺が子供の頃、家にアンドロイドが居たんだ。ケアムの様な熊型の初期タイプだったよ。お前みたいな感情豊な奴では無かった……せいぜい数パターンの返答しかできない奴さ」
 僕は何も言わずにただただマスターの話しを聞く。
「ある日、二人っきりの時にあいつが皿を割ったらしくてな。その時システムのバグで少し暴走したらしい。俺の部屋に入ってきて俺の体を強く握って激しく揺らしてきたんだ……俺自身にその時の記憶は無くて後から聞いたんだがな。オヤジが見つけた時には腕の骨は折れ、頭から血を流して床に倒れていたそうだ。アンドロイドは横で自己停止していたよ」
 マスターが髪の毛を掻き分け僕に見せる。そこには一カ所だけ毛がなく、縫い傷のようなものがあった。
「今みたいに跡形も無く傷口を消すなんて技術なかったから残ってるんだ」
 再び傷口を隠すように髪を戻す。
「それで……そのアンドロイドはどうなったんですか?」
「当然その時以来起動する事もなく廃棄さ。親がメーカーを訴えて勝ったらしいが、俺はそんな事どうでもよかった。暴走して傷つけてきたとは言え、俺が物心ついた時から兄弟の様に思っていた奴が消えた事に毎晩泣いたよ。不思議だよな……自分の骨折られたのに『あいつ、潰される時痛かったのかな……』とか心配していたんだから」
 当時の記憶が甦ったのだろうか。温かい湯の中でもマスターの手が震えている。
「MOD社のカタログの隅に載っていた時にそれを思い出してな。セクサロイドだろうとお前が欲しくて……大切にしたかった。そこは間違えないでほしい」
 僕はマスターの言葉に無言で頷く。
「雄型だったのはその……俺の性指向がそっちに行ってしまったからなんだ。気づいたらそうだった。つい熱が入って乱暴にしてしまったが……俺はお前が好きだ。お前が機械だろうが獣型だろうが関係ない。他のやつら以上の個性を持つお前がいい」
 突然の告白に僕は内心驚いた。人間が機械である僕に好意?
「で、でも、僕の個性とやらは不具合なので……いずれ修理され初期化されるのではないですか?」
 頭の中がフリーズしそうな状態でやっと絞り出した言葉。
「ちょっと失念したんだが……俺の情報は初期設定の中に入っているか? ケアム」
「氏名や性別と生年月日……あとはアクティベーション時に呼称が設定されます。あとは……自分の事なので。一部のファイルは壊れていますが」
 これはオーナー本人であれば話していい事なので話せる。
「そうか……そこに俺の職業は入ってないんだな?」
「はい。あくまで必要最低限の事しか登録されていません」
 正直に答えた。
「俺の職業はな……ケアムのようなアンドロイドやガイノイド……セクサロイドを含むサイボーグのシステムメンテナンス担当なんだ と言えば分かるか?」
「なんとなく分かりますが……それで僕の不具合が直るとは思いませんが」
「直すなんて考えていない。人に任せるならお前のメンテナンスは俺が担当する。ちょっと腕出してみろ」
 言われるがまま、マスターの眼前に腕を差し出す。近くに掛けてあったタオルで軽く体毛を拭く。
「コマンドME3を実行。実行者コードFNZGCV53」
 マスターの言葉にコアシステムが反応し、腕がの一部が開く。
 そこから浮き出たホログラムを見つめるマスターは小さく「なるほど」と呟く。
「コマンドME3を終了」
 開いた腕が再びもとの状態へ戻った。
「何が分かったんですか?」
「たいした事じゃない。新人に初期設定とメンテナンスをやらせたのかと思ってな」

 風呂からあがり、今度はしっかりと体毛を乾かした。
 そして深夜、マスターは別室で寝息を立てている頃。
「くっ……かはぁっ!」
 月夜が差し込む薄暗い部屋で、僕は漏れる声を堪えて尻の穴に指を突っ込んでいた。
 横にはメンテナンス用のボトルが何本か置いてあり、それを指ですくい指で少し広げた穴へ塗る。
「うっん……もうちょっと……」
 マスターの性的興奮を感じた時に、僕自身の粘液の分泌を促進させる錠剤をいつもより多めに穴に押し込み、メンテナンスを終わらせ服を着る。
「あの言葉……本当なのかな」
 ため息をつきながら外の月を見上げる。
 頭の中で何度も繰り返される『他のやつら以上の個性を持つお前がいい』
 信じたい。でも本当にそれでいいの?
 もしも、僕に飽きて他のセクサロイドに移ったら? 僕は引き取られて廃棄されるの?
 考えれば考える程、体が震えてしまう。怖い。

「お前……まだ起きていたのか?」
 顔をあげると部屋の入り口にマスターが立っていた。
「申し訳ありません……起こしてしまいましたか?」
「いや、ちょっとお前の様子を見にきたら頭をかかえていたからな。ちょっとこっちへ来れるか?」
 リビングの椅子に向かい合って座る。
「飲むか?」
 目の前に温かいミルクを出された。 液体であれば全て体内で処理できる。
「あ……ありがとうございます」
 礼だけ言いコップに口をつける。
「さっき好きだと言った事、考えていたのか? 余計な事言い過ぎたかな」
「そ、そんな事ありません! 何て言うか……嬉しかったです」
 色々な感情が混ざりあい、マスターの顔を直視できない。
「でも?」
 僕が付け加えなかった言葉を見抜かれていたかのようだった。
「で、でも……いつか飽きられてしまう事を考えたら急に怖くなってしまいまして……申し訳ありません」
 考えていた事を正直に話した。ここで工場に戻され破棄されても、まだ大丈夫な気がした。
「ケアム……お前は謝り過ぎだ。確かにいつか別れは来るだろうな。俺は人間だ。いつか寿命がきて死ぬ。お前も経年劣化でいつかどこかにトラブルが出るだろうな……ケアムが壊れた時に俺はお前を全力で直したいし、俺が死ぬ時は看取って欲しいとまで思っている」
 コップを握っている僕の手をマスターの手が覆う。
「お前に飽きる事なんて無い。これだけは間違いなく言える事だが、よく言われる『ただ疑似セックスができて妊娠する心配のない存在』なんて思っていない」
 頭の中が混乱している。本当に信じていいのか余計分からない。
「まあ、時間はいっぱいあるからゆっくり考えればいい。今日は頭を休めろ。熱暴走するぞ」
 ホットミルクを飲み干し席を立つマスター。
「はい、申しわ……分かりました」
 僕も一気に飲み干しシンクへコップを置き自室へ戻ろうとする。
「ケアム」
 名前を呼ばれ、足が止まる。
「その……今晩だけでも一緒に寝てくれないか?」
「え、でも……」
 マスターの口調に性的欲求は感じなかった。むしろ恥ずかしさを感じた。
「安心しろ。単純に寝れないだけだ。襲いやしないさ」
 大きめのベッドに潜り込み、マスターが僕の体に腕を回し抱きつく。
「大丈夫か? 狭くないか?」
「大丈夫ですよ」
 十数分くらい経っただろうか……
「ケアム、頼みがあるんだが」
「なんでしょうか?」
「その……上だけでいいから服を脱いでくれないか? お前のふかふかな毛に包まれて寝たい」
 その声にも性的な感じはなかった。
「分かりました。少し待ってください」
 一旦ベッドから降り、上も下も脱ぎ捨て下着一枚になった。マスターの趣味らしく、褌だけを身にまとって。
「お、お前! そこまで脱がなくていい!」
「下だけ穿いてても落ち着かないんですよ。駄目ですか?」
 予想外の行動にマスターの目が白黒している。
「い、いや、だ……駄目ではないが……」
「では、失礼します」
 再び布団に潜り込むと、マスターが抱きつく。
 僕もお返しにマスターに足を絡ませる。一瞬彼の体がびくついた後、僕の背中に回された腕に力を込められる。
 思った以上に早く寝息が聞こえた。一日にあれだけ射精して疲れていたのだろうか。

「マスターの命令は絶対です。僕はマスターが一番大切な人なのですよ」
 囁きながら寝息を立てるマスターの頭を子供をあやすように撫でる。