4

 あの日の朝、ライが去ってから幾日経ったのだろうか。空気の遷り変わりを否が応にも肌が感じ取ってしまう。
 しかし、私たちの時間はあの時で止まってしまっている……いや、止まっているのは彼だけかもしれない。
 テリはあの時は泣きわめくシルの横で表情を変えずにいたのだが
「なんだ。もういいのか?」
 食事をとっている最中、テリだけが席を立つ。
「ああ……すまんな」
 ゆっくりと去る彼の後ろ姿が日に日に小さくなっている気がする。
 思い出してみると時々窓際でぼーっと遠くを見ている彼の姿を見かけるが……やはり寂しいのだろうか。
 いくら私から今の状態を聞こうが「なんでもない」としか返ってこない。
 一方のシルはと言うと……可もなく不可もなく、ただ話し相手が居ない分大人しい。
 もちろん誰の口からもライの名前は出ないが……今頃彼はどこにいるのだろうか。
 いい加減仕事をしなければ宿代で商売道具まで売り飛ばしてしまうことになってしまう。
「明日はスルのジジイに呼び出されているから、朝からちょっと出かけてくるからな」
 床に着く前にテリとシルに伝える。なぜ呼び出されたのかとんと見当もつかない。
「そうか……俺たちは行かなくてもいいんだよな?」
「ああ。呼び出されたのは私だけだ」
「わかった。おやすみ」
 以前は鬱陶しいほどくっついてきたテリとの会話ですらこの有様だ。

 夜が明け、二人が未だ夢を見ている中、支度を済ませて宿を出る。
「フォーレンツドミット」
 一瞬で目の前の光景が光に覆われ、次の瞬間には目的地の建物の中にいた。
「おお、来たか!」
 建物の奥から野太い声が聞こえ、その声の主……年老いたの牛族が姿を現わす。
「スルのじいさん……こんな朝から何の用だ?」
 昔は名を馳せていただけあり、当時筋骨隆々だった体の面影は今でも残っているようだ。
「最近お前さん方……仕事をしておらんな? まさか馬の子が抜けてまだ傷心しとるんじゃないだろうな?」
 間違いなく重症なテリの事だろう。
「まあ一人だけな……相変わらず全部知っているんだろう?」
「彼奴の事は子供の頃から知っとるからな……大体そうだろうと思ったまでだ」
 二人の前に出された煎茶を一口すする。冷えた体に茶の温かさが沁みる。
「あいつの事は私が乗り越えさせる。まさかこの為に呼んだ訳じゃないだろうな」
 朝っぱらから説教かと私が席を立とうとすると
「いや、違う。そろそろ本題に入ろうではないか。おうい! こっちに来なさい」
 スルじいさんが部屋の奥に向けて声をかける。
「はい」
 奥からローブにも似た服を着た白い毛を纏った男が姿を現す。
 私たちの横で立ち止まり、私に向けて一礼する。白熊族か。
「フェアさん初めまして。イル……イル・ラグズ・タクトです」
 眠いのだろうか。目を若干細めながら名を名乗る。
「おい、どう言う事だ」
 横でふらふらと突っ立っている彼を尻目にじいさんを問い詰める。
「なあに、お前さんたちの中に入れてやれんかと思っての」
「断る。大切な者がいなくなったからすぐに代わりを入れて、さもライが居なかったかの様に振る舞えと? 私の仲間は替えの利く部品じゃないだぞ!」
 激情を抑えられずに机を思い切り叩きつける。早々に居なくなった者の代わりなど……苦渋の決断をして去ったライにもこの白熊族の男に悪い。
「落ち着きなさい。儂はなにも馬の子が抜けたから代わりに彼を……と言う訳ではない」
 普段は糸のように細い眼が鋭く開く。
「では……なぜ私たちなんだ?」
「此奴はいつまでもふらりとしておるからの……儂はあくまでも適切な者を呼んだまでだ」
 ちらりと白熊族の男を横目で見ると、私とスルじいさんとのやりとりにも一切動じていない……と言うか鈍いのだろうか。
「おい、お前……イルとか言ったな」
「あ、はい」
 まるで眼前で何事もなかったかのように私の目を見る。
「得意分野はなんだ? 槍か?」
 ライも槍使いだった……単に考えすぎなのだろうか。
「ま、魔法術……主に水です」
「ランクは?」
「ザロウィンクです」
 そう言うと彼は懐から一枚のカードを取り出して私に見せる。
 噂には聞いていたが、どうやらこのカードが最高ランクのものにしか付与されない証明らしい。
「考えすぎじゃ。儂がそんな真似するとでも思ったか?」
「そうか。すまない」
 やるとは思った。隠居もせずに何を考えているのか分からないからな……このじいさんは。

「イル、そろそろ行くぞ。荷物の用意をしろ」
「決めたのか?」
 ふと時計を見ると昼を少し過ぎていた。スルじいさんの長い説教じみた世間話に嫌気がさしてきたところだ。
「私一人で決めるのではない。最後はテリとシルが受け入れるかだ」
 彼を紹介する事で彼が現実を受け入れるかが一番の不安なのだ。
「ふむ……気をつけてな」
 ドミットの街外れからミリアット街へと戻る。相変わらずテリは部屋に引きこもっているのだろうか。
「ちょっと待っていろ」
 部屋の扉を開け、私だけ先に入るがそこにはシルだけしか居なかった。
「あ、おかえりなさい」
「シル、テリはどこに行った?」
 手洗いにも別室にもテリの気配はない。
「さっき『散歩行ってくる』って言って出て行ったよ」
 珍しい事もあるものだな。テリだけここ半年近く、一歩も外に出ていなかった気がする。
「そうか。ではシルにだけ先に紹介するか……入ってこい」
 シルはベッドに寝そべりながら何も言わずに首を傾げる。
 そしてゆっくりと、朝と同じようなペースでイルが入ってくる。
「え、ちょっと待って。どう言う事?」
 イルの姿が見えた瞬間ベッドから跳ね起き目を白黒させる。当然と言えば当然の反応か。
「彼はまあ……向こうで少しあってな。テリが帰ってきてから詳しくは話すが」
「う……うん」
 それから少しだけ部屋に沈黙が流れた。
「よう、帰ってき……誰だこいつは」
 沈黙を破るようにテリが袋を抱えて帰ってきた……が、イルの姿を見た瞬間彼の目つきが鋭くなる。
「テリ、シル……話があるから来てくれ。イルはここで待っていてくれ」
 二人だけ宿屋の外に連れ出し、ドミットであった事と彼の事を話す。
 シルは話を切り出した時は何か理解したようだが、ライは終始何も言わずに顔を顰めていた。
「俺はどこのどいつか知らないやつを受け入れられねえ」
 腕を組み、ようやく発した言葉がそれだった。
「テリさん、彼……イルはライの替わりにはなれないし、オレも少しショックだったけど……たださ」
「シル、お前フェアの肩持つのか? なんだよ! 言いたいことがあるなら全部言えよ!」
 テリはライを睨みつけ被毛を僅かに逆立たて、隣に生えていた樹に拳を一発叩きつける。
「ただ……あの部屋でじっと篭っていても何も変わらないと思うんだ。オレは……またみんなで仕事をしたいんだ」
 シルは肩を微かに震わせ瞳を潤ませる。彼は今のテリに怯えているのを必死に隠している。
「むう……お前、たまにらしくない事を言うよな」
 返す言葉もないらしいが、シルの言葉にテリが頻りに唸っている。葛藤をしているのだろう。
「ああもう分かったよ! 努力は……してみるわ」
 十数分程度唸り続け、どうやら彼の中で何かの糸口を見つけたらしい。
「すまない。二人とも」
「ただし、条件がひとつある」
 テリが私の眼前に迫る。
「今日の夜、や……やらせろ。あれからずっとしていなかっただろ」
 シルに聞こえぬようにそっと耳打ちする。
「わ、私とか?」
「お前の他に誰がいる。それとも『あの若造を一発殴らせろ』とでも言うと思ったか?」
 そこまでやるとは思っていない。僅かに浮かべる彼の笑みに少し肩の力が抜ける。

 部屋が近づくにつれ、徐々に顔がテリの顔が険しくなる。
 そして部屋の扉を開けると、イルは奥のスペースに座り込んでいた。
「おい、イルとか言ったな。まずは立て」
 どう言うことだ。鼻に皺を寄せイルの前に立ちはだかる。
「は、はい!」
 イルは勢いよく立ち上がり、テリと向き合う。
 テリより少し低いイルの頭に手を乗せ、顔を彼に近づけると、小さな耳を頻りに動かし首を竦めはじめる。
「お前……出身はどこだ」
「な、ナノクの外れです。あ、あの!」
「聞かれた事だけ答えろ。年はいくつだ」
「も……もうすぐ二十です」
 テリの威圧感にイルの声は震え、質問を重ねるごとに徐々に弱々しくなっていく。
 彼の家族構成……実戦経験に趣味に身長体重。抑揚もなくいくつか問答したところでテリは彼から離れ、自分のベッドに腰をおろす。
「最後に聞く。お前、俺が怖いか?」
 イルは最早何も言えず、目を潤ませながら微かに頷く。
「だろうな。いくら上級ザロウィンク様だからと……」
「いい加減にしろテリ。脅しすぎだ」
 喧嘩になりかねないと、私はとっさにテリの頬を叩く。
「分かった分かった! 悪かったな。意地悪が過ぎちまった」
 部屋の隅に置いてあった袋の中から飲み物を一本取り出し、イルに渡す。
「とりあえず飲め」
 テリから飲み物を受け取ると蓋を開け、少しだけ匂いを嗅ぐ。
「別に毒でも酒でもねえよ。普通のジュースだ。フェアとシルの分もあるからな」
 尋問まがいのテリの質問攻めによほど喉が渇いていたのか、イルは一気に飲み干す。
 イルが飲み干したものと同じものをもらう。この辺りでは見かけない果実のジュースだった。
「どこに行っていたんだ?」
「隣町の知り合い……前に酒を貰ったやつの所だ。こっちの方が本業でな」
 あの酒の主か。一度会ってみたいとは思っていた。
「そう言えば、あの酒はどこに?」
 暫く振りに口を開いたかと思えば……シルはまだあの酒が手付かずで残っていると思っているらしい。
 その日の夜中に二人で呑みきったとも言えない。
「色々とごたついていたからなあ……どこかにあるんじゃないか?」
「そっか……あったら呑みたかったな」
 シルは尻尾を左右に揺らし、渡された飲み物をゆっくりと飲み干す。
「あ、あの」
 飲み物を口にして落ち着いたイルがようやく口を開く。
「僕はここに居てもいいのですか? あの……その」
 イルは不安そうにテリをちらちらと見る。まだ恐怖心は拭いきれていないようだ。
「ああ。怖がらせてすまん。改めて……よろしくな」
 いつもの表情に戻ったテリは、イルに向けて手を差し出す。
「は、はい」
 イルは恐る恐る差し出されたテリの手を握る。 
「このベッドでいいか?」
 シルの隣……ライが使っていたベッドを指差す。
「俺はまあ、あれこれ言える立場じゃねえからな。好きにしろや」
 テリはそれだけ言うと部屋から出て行ってしまった。
「僕はどこでも大丈夫ですよ」
 特に希望がなければ……とその場所にイルの鞄を置くと私は一つため息をつく。
 今日一日がやけに長く感じる。これは決して気のせいではないはずだ。
「よろしく。イル」
 隣のベッドに寝転んでいたシルがイルに話しかける。
「よ、よろしくおねがいします」
「気使わなくていいよ。テリも普段はあんなに怖くないから大丈夫だよ」
 鞄から小物を幾つか取り出し、サイドテーブルに置く。
「荷物はこれだけか?」
 イルが持ってきたものは片手で持てるくらいの鞄のみ。他に荷物が届くと言う事も聞いていない。
 服も入っても数日分と言ったところだろうか。
「これだけです。あとは近くで買おうかと思いまして」
 服が数着とやけに年季が入っている本が一冊。あとは細々とした日用品と言ったところだろうか。
「この本は何だ?」
 表紙には普段私たちが使わないような書体で文字が書かれているようだ。
「魔法術の本ですが、今は使われていない魔法術なんかも書かれています。見ても大丈夫ですよ」
 ページを幾つか流し読みしてみたが魔法陣や何かの手順書……何が書かれているか全く解らない。
「全部読めるのか?」
「こつが分かればほとんど読めますよ。単語は分からないものもありますが」
 本をイルに返し、彼はサイドテーブルの引き出しに本をしまいこむ。
「そろそろ陽が沈みそうですね」
 イルは窓の外を見ると指をぱちんと鳴らす。同時に部屋の中に置かれているランプに火が灯る。
 一つだけではない。最近各ベッドの枕元に置いた小さなランプにも同時に火が灯った。
 ランプの中で小さな火が部屋の各所でゆらゆらと揺れる。

「よう。そろそろ飯みたいだぞ」
 部屋の外から腹の虫をくすぐる匂いにつられたかのようにテリも帰ってきた。
「今日はやけに出かけていたみたいだが……どこに行ってたんだ?」
 今まで一歩たりとも外に出なかったテリが一日に何度も出ている。
「別になんでもねえよ。ただの気分転換の散歩だ」
 なぜ今日に限って……ずっとほとんど生気を感じない日々を送っていたのに。
 まさか……いや、深く考えるのはやめておこう。たまたまタイミングが重なっただけだろう。
 廊下を歩きながら、前を歩くテリの大きな背中を凝視しながら自分を納得させる。
「ん、なんだ? さっきからずっと俺の背中から視線感じるんだが、何かついているか?」
 テリがちらりと私の方を見る。
「なんでもない。早く行け」
 眼前で揺れる大きなテリの尻たぶをぱちんと叩く。
「おおう。わかったわかった」
 わずかに飛び出ている尻尾がぱたぱたと揺れる。
「やっと来たか……おいフェア、その子は誰だ?」
 食堂に入った瞬間にテーブルに皿を並べていたオーナーが、私たちの一番後ろにいたイルに気づく。
「新入りだ。よろしく頼む」
 イルを前に来させると、オーナーに軽く一礼をする。
 恥ずかしいのか緊張しているのか、ずっと俯いたままだが。
「前もって分かればそれなりのものを用意したんだがなあ……」
「私も今朝この事を知ったんだ。それに……気を使わなくてもいつもの飯で十分だ」
 オーナーが出す料理は小綺麗に一人一人料理が取り分けられる訳ではなく、ある程度大皿に盛られたものを各自で取り分ける。
 いくら一人増えたところで、誰かの一品がなくなる事はないだろう。
 それよりも問題はテリだ。いくら外に出るようになったところで食欲は……
「おい早くしろよ。こちとら腹が減ってるんだからよ」
 いつの間にか席に着いたテリがよだれを垂らしかけている。
「どうしたんだい。ここ最近とはまるで……」
 やはり今までは何も言わずに座り、静かに席を立っていた彼とは正反対のテリにオーナーもに気づいた様子。
「分からない。理由は分からないが今日の様子を見ていると……少なくともあの日までの彼に近い」
 大皿に盛られた料理を運び終えたオーナーにそれだけ告げ、私もテリの横の席に座る。
 早速テリはテーブルに置かれた皿から肉を自分の皿に取り分けかぶりつく。
「おいフェア、こっそりとオーナーと何を話していたんだ?」
 肉を口いっぱいに頬張りながら私に話しかける。
「何でもない。それよりもイル、こんな奴の顔色なんか気にせずにいつも通り食え」
 イルの目前に置かれた取り皿の上には、一口サイズの野菜と焼き魚が一尾だけ。
 初めて我々と食事に遠慮しているのだろうか。
「ありがとうございます。こうやって大人数で食べる事がなかったので緊張しちゃって」
「ジジイ……いや、スルのじいさんの所では誰かと一緒に食べないのか?」
「食べません。一人分が各自の部屋に運ばれるので……それに、わざわざあの人の事を言い直さなくても大丈夫ですよ」
 イルはどこか寂しそうにそう言うと、近くにあった肉の山に手をつける。
「おい新入り、これでも飲め」
 テリが一杯のグラスを渡す。考えるまでもなく中身は酒だろう。
「ありがとうございます。香り付けしている水……ですかね」
 グラスの中身を一気に飲み干すと、毛が薄い鼻先と耳介が一気に赤く変わる。
「ふ、ふやっ! さ、酒です……か。僕……だめなんです……よ」
 そう呟きながら頭をぐらぐらと回し、俯いたまま動かなくなった。
 何が起こったかと私が立ち上がると……微かにイルの寝息が聞こえてきた。
「下戸か……俺、悪いことしたな。びっくりさせやがって」
 イルの様子にテリも一瞬驚いたものの、彼の様子を見ると小さくため息をつく。
 誰も酒の事については一切話さなかったからテリを責める訳にはいかないだろう。
「とりあえず部屋まで運ぶから手を貸せ」
「おう。シルはちょっと待ってろ」
 見た目通り重いイルの体を私とテリで部屋まで運び込み、ベッドサイドに水を一杯だけ置き部屋を出た。
 部屋の扉を閉めた瞬間、私の視界が何かに覆われ暗くなる。同時に口の中に生暖かいものがぬるりと滑りこんできた。
 入り込んだものがテリの舌だとようやく気づいた頃には、逆らえない本能によって入り込んできた異物に舌を絡めていた。
「もう辛抱堪らん。みんなまだ飯食ってるし……いいだろ?」
 互いの唾液を絡ませながら囁かれるテリの言葉に、体の芯がじんじんと熱を持ち始めてきた。
「や、やめろ」
 本能の渦へ完全に飲み込まれる寸前で体を無理やり引き離し息を整える。
「まあ、そうだよな……悪かった悪かった」
「ば、馬鹿か。ここで始めようとするな」
 まるで「すまんすまん」とおどけるかのように両手を広げながら階段を降り、下で待っているシルがいるテーブルへ戻る。
 シルはもう夕飯を食べ終わったのだろうか。小さめのグラスの中に注がれた酒を嗜んでいる。
「遅かったね。何かあったの?」
 少し血行が良くなったピンクがかった耳を見る限り、そんなに深く酒に呑まれていない様子。
「何でもない。わ、私も一杯貰おうか」
 私は血のように真紅な酒を。テリも好きな酒をそれぞれ頼む。
 運ばれてきた酒と、木の実を盛り合わせた簡単な肴をつまみながら二人に話しかける。
「どうだ? イルとやっていけそうか?」
「オレは大丈夫だと思う。まだ数時間しか話していないからよく分からないけど」
 微かに眠いのか、小さくあくびをしながらシルは答えた。
「俺は……分からねえ。あいつの本心は分からねえが、少なくとも裏表があるような奴には思えなかった」
 テリはそれだけ言うと、グラスに残った酒を一気に飲み干し席を立つ。
「悪い。先に風呂入って寝る」
「そうか。時間も時間だし、私たちもそろそろ部屋に戻ろうか」

「おいフェア、起きているか?」
 先ほどの火照りが収まらず、悶々と寝たふりをしていた私にテリが声をかける。あの日と同じように。
「なんだ……こんな夜中に散歩でも行きたいのか?」
 目が慣れた暗闇の中で、テリの顔が縦に動くのが見えた。
 布団を被っていなかったら、尻尾が揺れているのも分かっただろう。
「付き合ってやるよ。私も眠れなかったところだ」
 テリに腕を引かれるがまま、あの日と同じ場所にやってきた。
 あの日と違う事は、向かう途中で雨が降ってきた事だろうか。
「雨か……流石に寒いな」
 テリは何も言わずに再び私の手を引き、少し歩いた場所に建っていた小さな掘建小屋を指差す。
「あそこはまずいのではないか?」
「誰も住んでいないのは確認済みだ。持ち主も誰だか分からないそうだ」
 人が居ないから安心……と言うわけではないが、少なくとも雨風は一時的に凌げそうだ。
「何かあったら責任取れよ」
 静かに小屋の中に入ると、部屋の中央に小さな暖炉が置いてあるだけで他には何もなかった。
「分かってる分かってる。何かなくても責任は取るから……な」
「責任って何の……」
 背後から無言のまま急に抱きしめられられ、雨で冷えた背中にテリの体温が伝わってくる。
「今まですまなかった」
 次第に強く抱きしめられた太い腕を撫で上げ、片手に指を絡ませる。
「私は大丈夫だ。いつものテリに戻ってくれれば私は大丈夫だ」
 テリの方を向き、背伸びをしながら今度は私からテリに口をつける。
「んっ…………お、お前からして来るとは珍しいな」
「いつもされてばかりだから……ひいっ!」
 背後に回されたテリの手が雨で濡れた私の尾を軽く撫でられ、ぞくぞくと疼く感覚が脳天まで駆け上る。
「やっぱりな。あの時のキスでスイッチが入ったのか?」
「う、うるさい! その手を止め……やめ……あうう!」
 執拗に尾を触っていたテリの手が、徐々に腰へ前へと移動し……あっと言う間に下衣を脱がされる。
「よく言えるな。こんなに下着をぐしょぐしょに濡らしておいて……な」
 私の下着の隙間に手を突っ込み、布の奥で己の愛液にまみれた半立ちの肉棒をぐちゅぐちゅと掻き回す。
「ああああああ! や、やめっ……」
「止めていいのか? ずっと欲しいんじゃないか?」
 テリも余っていた片手で自分の下衣も脱がす。
「俺もよ……そんなお前を見ていたら我慢できなくなっているんだ」
 下着にくっきりと、テリの逸物が浮かび上がっている。その先端は僅かにテリの愛液で濡れそぼっていた。
 私は考えるまでもなく腰を下ろし、その強い匂いが立ち込める逸物へ顔を近づけた。
 雄々しく淫靡な匂いが私の鼻腔を刺激しながら通り抜ける。
 舌を伸ばし、その布から染み出す愛液を舐めとる……塩辛いテリの先走りが口を犯す。
「お前には”待て”は通用しないからな……いいぜ。好きようにしな」
 テリの言葉に私は堪らず、布越しに彼の逸物にむしゃぶりつく。
「おおう……元気に尻尾を揺らして……そんなに欲しかったのか?」
 私は何も言わずに口で下着を脱がし、テリの大きな逸物を飲み込む。
 舌で彼を隈無く舐め、口から吐き出したものをマーキングするかのように口に擦り付けまた咥える。
 私の唾液と溢れ出すテリの愛液が混じった音が、じゅぶじゅぶと静かな屋内に響く。
「フェア、前より腕を上げていないか? すごい……ああ、気持ちいい」
「んっ……ずっと……お前が欲しかっただけだ。それに……久々だしな」
 テリの体を床に押し倒し私も下着を脱ぎ捨て、すでには痛いくらいに怒張した私の肉棒をテリの逸物に重ね擦り上げる。
「んあああ……気持ち、いい……」
 床に大の字で寝そべったテリに跨り、天を向いた彼の逸物を私の尻……雌穴にあてがう。
「お、おいフェア! 慣らさなく……」
「大丈夫だ。もう慣らしている。い、いくぞ」
 こうなる事になるだろうと、風呂に入った時に事前に解して広げていた。
「おう……おお、いい眺めだな」
 テリに跨り、両脚を思い切り開いたまま彼の太く大きな逸物をずぶずぶと飲み込む。
 きっとテリには私の肉棒も、徐々に彼を飲み込んでいる結合部も全て見られていると思うと、体の奥が続々と燃え上がる。
「ぜ、全部……入っ……うぐああ!」
 尻にテリの体を感じた瞬間腰の力が抜け、結合部に一気に私の体重がかかり私の最奥にテリの逸物が深々と当たる。
「お、おい大丈夫か?」
「相変わらずすごいな……腰が抜けそうだが大丈夫だ」
 脚をM字に広げ、腰を上下に動かし彼の逸物をゆっくりと出し入れする。
 一つ一つの動きで気を失いそうになるくらい気持ちのいいものだ。
「んくっ……はあ……はあ……」
 私の肉棒と二つの玉が上下に激しく揺れ、テリの体や私の下腹部にぺちぺちと当たる。
「す、すげえな……俺そろそろいっちまいそう……うぐっ!」
 テリが顔をしかめた瞬間、彼の逸物から勢い良く精液が吹き出し私の中を満たしていく。
「ま、まだ……こんなものじゃないだろ?」
 テリは息を荒げながら、私に「当然だろ」と言わんばかりの笑みを向ける。
 その表情に再び腰を上下に動かし、彼のものを絞り上げる。
「ああ……テリのちんぽ……ああ堪らねえ」
 テリの目には結合部の彼の精液と私の唾液が混ざり合ったものが泡になっている様子が丸見えだろう。
「へへ……いい眺めぜおい」
 下から強く突き上げられ、私が腰を打つ度にテリの脂肪と胸が水面のように波打ち、より私を熱くさせる。
「ああ……ああいい……いい」
 最早うわ言のように喘ぎ、何かに取り憑かれたかのようにぐちゃぐちゃと音を立てながら腰を振る。
 快楽に溺れながら腰を振っていると、テリが短く呻き声を上げると同時に温かい物が溢れる……二回目の種が放たれたのだろうか。
 しかし、逸物の硬さは保たれたままのようなので、休むことなく腰を上下に振り続けようとする。
「お、おいフェア」
 テリは急に私の両腕を掴み、そのまま上半身を起こす。当然私はそのままテリの代わりに床へと押し倒される。
「ふう……ふう……乗られる側でもいい眺めだったが、ここからの光景を楽しませろよ」
 繋がったまま体位を変えられ、中をぐるりと抉られる。
 正常位かと思いきや、両足まで抱えられ……屈曲位と言うものだろうか。
 初っ端からトップスピードに近い腰つきで私の中を猛々しく掻き乱す。
「んっ……ああん! もっと、嗚呼……もっと突いて!」
 腸内に溜まっているテリの精液が潤滑油となり、溢れ出た精液が私の尻や尻尾を濡らす。
 どすんと最奥まで突かれ、テリの途中にある前立腺を何度も刺激され……
「あああ! わ、私も、あっ……いっく!」
 テリの放った精液に比べれば少ないだろうが、今まで堪えていた私のものが弾け自分自身の顔や耳に白い線を描く。
「おお……俺もまた出……」
 暫し遅れて私の中でテリの逸物が弾けた。衰えると言う言葉を事を知らないかのように量が私の中を満たしていく。

 側位や後背位に座位……体位を何回変えたのだろうか。
「んっ……ちょ、ちょっとストップ……テリ待って」
「おお……どうした?」
 今に至るまでテリの射精の勢いも変わらず、床も二人の被毛も汗と精液で濡れそぼり、私の菊門も度重なる刺激で最早感覚を失いつつある。
 ふと窓に視線を移すと、空が薄っすらと白み始めているようだ。
「そ、そろそろ……帰らない……と」
 互いに荒い息をなんとか整えていると、私の菊門からちゅぽんと可愛らしい音と共にテリの逸物が抜け落ちる。
「あんっ……」
 太い栓が抜けると同時に中で溜まりに溜まっていたテリの精液が、どくどくと溢れ出る。
「なんか……勿体無えな。だが、お前の格好もまた唆るな」
 何回も中出しした筈なのに硬さを保っているそれを、テリは右手で抜きあげる。
「お、おう……最後に一発だけ出させろ」
 彼は空いている左手で、精液が絶え間なく溢れ出る私の菊門に太い指を数本入れ、中でばらばらに掻き乱す。
「んああああ! や、やめ……」
 彼の硬い肉球が私の良いところを荒々しく抉り、テリも自身の逸物をくちゅくちゅと抜きあげる。
「ほら……最後の一発だ! しっかりと飲み込めよ」
「ひいっ! もがっ」
 一気に指を抜かれたその刹那、だらしなく開けていた私の口にテリの怒張した物がねじ込まれ……熱く雄臭い液体が喉奥に流し込まれる。
 流石に何回も出しただけの事はあり、口や喉に纏わりつくほどの粘度も精子もないようだ。
「ん……んぐう……げほっげほっ」
 喉奥に突っ込まれた彼の逸物に纏わりついていた雄臭さに咽返ってしまい、流し込まれたテリの精液が気管支に逆流する。
「お、おい。大丈夫か? 鼻から出てるからこれで拭け」
「だ……大丈夫だ。すまん」
 差し出された大きな布で鼻先を拭き取るが、これも妙な匂いがする。
「おい、これって……お前の下着か?」
 色や大きさと言い……私の物ではなく、かと言ってこの小屋に最初からあったような埃っぽさはない。
「ああ、手元にあったのが俺のしかなくてな……お前は向こうに投げ捨てたしな」
「す……すまない」
 突かれっぱなしの交尾で叩く気力も芽生えず……却ってテリの下着の匂いを嗅いでいると、また体が熱くなりそうになりそうだ。
「い、いつまでも嗅いでるんじゃねえよ! 立てるか?」
 テリが真っ先に立ち上がり私に手を差し出すが、眼前に少し硬さが残る彼の逸物が聳え立っている。
「ふ、おう……」
 彼の敏感な部分を一舐めし、彼の手を掴み立ち上がる。少し足元が覚束ないが歩けない程疲弊している訳でもない。
 淫液に濡れて冷えきった下着を穿く気にもなれず、下衣を直接穿き外へ出る。
 まだ誰も居ない中、久方振りに二人で手を繋ぎながら帰路につきながら彼は言った。
「辛い役回りばかりさせて寂しい思いもさせちまってすまなかった。また……よろしくな」
 頬を掻きながら視線を合わせようとせずに歩き続ける彼。
「おかえりなさい。私はお前さえ居てくれれば大丈夫だ」
「ん……そっか。ありがとうな」