みんな、それぞれ過去が有って此処にいるんだ…
家族を失った人…それ以上の苦痛を体験した人…MERGには大勢いるんだ…

帰り際の竜崎さんの言葉がずっと頭から離れないでいる…
その為か…竜崎さんが眠りについても、僕は眠りにつく事は出来なかった…

みんな辛い思いをして今まで生きてきた…
でも…今の僕に出来るのは……


……
………何も無いの?

まだ変化して間もなく…覚醒すらしていない…
あまりにも急な出来事があり過ぎて、僕はまだ少し混乱している
竜崎さんの言葉…この数日間の出来事…それがグルグルと頭の中を駆け巡ってる…

ふと時計を見てみる…

2:58 AM

「もうこんな時間…」
未だに眠気が来る気配も無い…

少し…外の空気を吸ってこよう…



-竜崎家 マンション前-

一歩外に出ると夜風がフッと僕の体を撫でた…

外は深夜なのに、街灯や街の明かりが眩しく点いている

「ねぇねぇ!これからどっかで飲み直そうよ」
すれ違った女の人たちがそんな事を言っている…

「こんな時間まで仕事なんて…やってらんないよ…」
仕事帰りなんだろうか…ヨレヨレのスーツを着た鳥族の男がブツブツ言っている…

僕はそんな人達の横を抜けて行った…

皆にも悩みはあるだろう…誰にも相談出来ない悩みを抱えてる人もいるんだよな…
そんな事を思いながら僕は街中を宛ても無く彷徨っている…

「おい!待て」

後ろの方から誰かに呼び止められた気がした…
でも、聞いた事の無い声だったので気のせいだと思い再び歩き始めた…

すると…
僕の前に一人の獅子族の男が現れた…

「熊木 宏太だな?一緒に来てもらおうか…」

全く知らない人…禍々しい雰囲気も漂っている…

「あなたは…誰?」
「君を守る者だ…さぁ、一緒に来るんだ」
しかし、彼の目は明らかに『嘘』をついている目だ…

次第に彼が僕の方へ近づいてくる…

その時だ!

「熊木!その男から離れろ!!」
竜崎さんの大声が僕の方へ向かってきた!

僕は竜崎さんの声の通り、後ろへ下がった
そして、竜崎さんが僕の所に追いついた

「ど…どうして僕の居場所が…」
「詳しい事は後で話す!今はココから離れる事が先決だ」
そう言ってる間にも獅子族の彼は僕たちの方へ歩みを進めている…

「お前は…MERGとか言う邪魔な団体のヤツだな…お前も一緒に来たいのか?」
「ふざけるな!お前らの所へ行く位なら死んで仲間の所へ逝った方がマシだ!」

彼(獅子族)が竜崎さんの言ってた『組織』の一員なのか?

「くっくっくっくっ…逝った方がマシだ…か…言ってくれるねぇ〜…」
そう言うと、胸元から取り出したのは…

拳銃…?

「ならば仲良く死んで仲間とやらの所へ逝って貰おうか…」
その銃口は、僕に向けられた…

「熊木!!危ない!!!!」

竜崎さんが僕の体と重なる…次の瞬間

音も無く銃から火花が散る…
それと同時に、竜崎さんの肩から暖かい液体が僕の体にかかった…

「きゃぁーーーー!!!!!!!!!」

それと同時に通行人の一人が僕たちを見て悲鳴をあげた…
僕は体にかかった液体を手に取り見てみる……

僕の手は真っ赤な血に染まっている……

ぁあぁぁぁああぁぁあ!!!!」

「ちっ…外したか…」

竜崎さんの肩から出た暖かい液体…それは竜崎さんの血だ…
僕にもたれ掛かった竜崎さんは、力なく地面に崩れ落ちた…

「よ…よかった…熊木が無事で………うっっ」
掠れた声で僕に呟いた…

僕の頭の中は真っ白になった
ただただ、竜崎さんの撃たれた場所を抑えて止血している…

お願い…死なないで!!

その時だ

僕の体が熱くなった! まるで…変化が起こった時の様に…

そして竜崎さんの傷口を抑えている手が体以上に熱く感じる

「うっ……」
竜崎さんの声と共に傷口が消えていくのが分かった

「く…熊木…お前…その目…」

竜崎さんが僕の手を押さえると僕の体の熱も引いていった…
僕が竜崎さんの体から手を離すと…撃たれた後の傷は、すっかり無くなっていた

「…まさか…」
今、僕の体に起こった事が分からないけど、竜崎さんには分かった様だ…

一方僕は…竜崎さんの無事な様子に…

「ぅあぁぁ〜〜!無事で…よかった…です…」
高まっていた気持ちが緩み、一気に涙が溢れた…

「あ…あの…だ…大丈夫なんですか?」
周りの人が竜崎さんに声を掛けてきた
「あぁ、大丈夫です。ありがとう」
そう言いながら竜崎さんはスッと立ち上がり、僕の腕を引っ張り上げた

「さぁ、熊木…ひとまずココから離れよう…」

気がつくと、竜崎さんを撃った人は何処かへ消えていた…



-公園-
僕たちは公園のベンチで休む事にした

「さっき俺を治した時の熊木の目…青っぽい色になっていたぞ」
「えっ!?」
「そうだな…透き通る様な青…って感じだな…南国とかの海みたいな色だな」

それって…僕が変化のあった時に見た、もう一人の僕に会った時に感じたのと同じだ…

「まさか…これが覚醒って言うんじゃ…」
「その通りだ。正直俺も驚いている。まさか数日で覚醒したなんて…」

「僕はただ…お願い!竜崎さん、死なないでって思いで必死だったんです」
そう言いながら僕は、自分の手を見た…

「まぁ、その強い思いが熊木にとっての引き金になったんだろうな」
水道で手に付いた血を洗い流しながら竜崎さんは言った…

「さて!帰ろうか!後は家でゆっくり話そう」



-竜崎家-

”指紋認証完了致しました お帰りなさいませ 竜崎 武蔵さん”

僕たちは血の付いた服を着替える…竜崎さんがその服を一つの袋に纏めた

「さっきは…本当にありがとうな…熊木」
「いえ、竜崎さんが助かって本当によかったです」

暫し二人の間に静かな時間が流れ…

「僕も…ありがとうございます。あの時竜崎さんが来てくれなかったら…今頃どうなっていたのか分からないです…」
「あのままだったら、確実に組織によって殺されていただろうな…でも間に合って良かった」
あのまま竜崎さんが来なかったら…考えるだけで背筋が凍りそうだ…

「なんで、僕があの場所に居たって分かったんですか?」
「部屋から出て行くのが分かってな…少し離れて跡を着けてたんだ…万が一の時の為にな…まぁ、結果は俺が逆に助けられたがな」

僕たちは横に並んで…ホットミルクを飲みながら落ち着いた時を過ごしている…

いつしか、僕の頭の中から不安な事は無くなっていた

傷ついた人を助ける…それが僕に出来る事なんだ
これ以上犠牲を出したくない…人が死ぬのは絶対にイヤだ

僕はいつの間にか竜崎さんの肩にもたれ掛かって眠りについていた…