-竜崎家 前-

あの後 雫や藤間と別れ、僕は竜崎さんの家に向かう事になった…

”指紋認証完了致しました お帰りなさいませ 竜崎 武蔵さん”

「さぁ、散らかってるけど…上がってくれ」
「おじゃましまぁ〜…す…」
竜崎さんがドアを開けると…そこには…

足の踏み場が無いと言っていい程、本や服が散乱している…

「ず…随分…散らかってますね…」

「ま…まぁ…大学やらMERGの事で、なかなか掃除する時間が無いんでな…」
と言いつつ竜崎さんは頬を掻いている
「そ…そうなんですか……」

…僕の部屋より散らかっているナ…

「あの…竜崎さん…掃除…しますね…」
「イイのか?ス…スマンなぁ…」



-数時間後-

「ふぅ〜…終わりっ!」
二人で協力して、なんとか部屋に散らかっていた物等を片付けられた

「本当、助かったよ!ありがとうな熊木」
「いえ、お役に立てて良かったです」
これからココで生活するんだから、これ位の事はやっておかないとね

「ん〜…じゃぁ…熊木は…こっちの部屋な?」
そう言われて案内された部屋は…何も置いてない空室だ…

「私物とかは明日辺りにMERGの人が、熊木の部屋から持ってくるから…今日は、来客用の物を使ってくれ」
来客用…言うと?」

竜崎さんが部屋にある物置スペースの扉を開くと…そこには布団、パジャマ等の一泊する最低限の生活道具は置いてある

「まぁ、俺でも一応大学の教授仲間やMERGの人達を集めて、酒を飲んだりするから…これは、その時に使ってる物なんだ」
「そうなんですか…じゃぁ、今夜はコレを使わせて頂きます」

僕と竜崎さんで布団等を引っぱりだし、すぐにでも寝れる様な状態にして
僕たちはリビングに戻り、ゆっくりとしていると…

「なぁ熊木…」
「なんですか?」
少しだけ…竜崎さんの目が真剣になり

「この数日の間に生活がすっかり変わったが…大丈夫か?辛くないか?」
「え!?ぼ…僕は大丈夫ですよ?なんて言ったらいいか分からないけど…夢を見始めた頃から、今僕たちの置かれている状況よりも辛い目めに遭うかも って思ってましたし…少なからず今は、竜崎さんやMERGの人達も居るから、気持ちは割と楽です」

これから何が起こるか分からないし、誰かが死ぬかもしれない…

でも…

「勿論、君たちは守りたい…その時が来たら、俺は全力で君達を守り抜く…それは君たちが変化する前から心に決めている事だ…
まぁ…MERGの力に居る人が奴らの組織を潰せれば…その為に死んでいった人達への償いにもなるだろうしな…」

その言葉…僕も竜崎さんと同じ気持ちだし、竜崎さんの言葉を信じていたい…

「…そうか…もし色んな面で辛くなったらいつでも言ってくれ…俺も出来る限り力になるからな」
「ありがとうございます」

僕には雫や藤間…そして竜崎さん、MERGの人達が居る…
それだけでも、凄く幸せだし僕自身の力になっている


ぐぅ〜〜…

僕のお腹から部屋の空気を壊すかの様な音が鳴り響く…

「…………そ…そう言えばメシ…まだだったな…」
「………ですね…………」
凄く…恥ずかしい…

「俺がいつも行ってる店で良いか?」
「はい…お任せします…」

後ろから竜崎さんに付いていく…数分で、とあるお店の前に着いた
そこの店は…バー?
看板には『Dining BAR Ralph -ダイニングバー ラルフ-』と書いてある

「ここのオーナーもMERGの人間でな、メシも旨くて安いし、俺の家から近くて便利だからよく行ってるんだ」
「そうなんですかぁ」

カランカラン

扉を開くと何処からか鐘の音が聞こえてきた…
聞いた事は無いけど…どこか懐かしい感じがする…

「いらっしゃい! おぉ!竜崎さんか!」
バーのカウンターに居たのは…僕と同じ熊族の人だけだ…

「どうも、また来ましたよ」
「ははは!いつもアリガトウな!…ところで、隣の人は誰だい?」
「熊木 宏太って…ホラ、この前話しただろ?」
「あぁ、君が熊木君かー。オレはこのバーをやってる『熊久保 裕樹(くまくぼ ゆうき)』って言う者です。まぁ、ココを家みたいな感じで気軽に来てくれよ」
彼が僕に向ける目は…親が子供に向ける…そんな風な表情に見えた…

「さて…竜崎さん!いつものでイイかい?」
「あぁ、それでいい。二人分 な」

そして暫くして僕たちの前に出されてきた料理は…
ご飯がドンブリに約三人前…肉料理が二人前以上…パスタやサラダ…

これが僕と竜崎さんの二人分…

「こ…この量をいつも一人で食べてるんですか?」
「ああ、いつもは他に酒とかツマミも頼むけどな」

そう言うと竜崎さんは涼しい顔をして、出ている料理を食べきった…
僕はと言うと…雫達に比べて少し大食いだとは思っていたけど……

「あれ?熊木、もう食べないのか?」
僕は竜崎さんの四分の三位の量しか食べられなかった…
それでもいつもより食べた方だ…

「も…もう…げ…限界です…」
「そうか…貰っても良いか?」

僕が「はい」と言う前に竜崎さんは、僕の方から残った物を貰い…何事も無かったかの様にお腹の中に入れた…

「かなり食べるんですね…」
「そうか?他の人にも驚かれるけど、俺としては普通の量なんだが…」

…他の人が驚くのも分かる気がする…


「さて、そろそろ帰るか」
少しお腹が苦しいけど、僕たちは竜崎さんの家に帰る事にした…

「なぁ熊木…」
夜道を竜崎さんと歩いている時だった…
「はい、なんですか?」

「さっきの熊久保さん…昔、奥さんと息子さんが一人居たんだが…10年位前に熊久保さんが仕事に行ってる間に組織に全員殺されてな…彼自身も殺される寸前だったんだが…MERGの人が助けられて彼だけが生き残ったんだが……息子さんが今も生きていれば、熊木と同じ年なんだよ…」

「そうだったんですか…」
最初に熊久保さんに会った時に浮かべていた表情…あれは僕と彼の息子さんを重ねていたのかな…

「前にその子の死ぬ数日前に撮った写真を見せてもらったがな…熊木に少し似ていたよ…だから余計息子さんの事を思い出したのかも知れないな…」

『まぁ、ココを家みたいな感じで気軽に来てくれよ』
その言葉が僕の胸に強く残っている…彼は本当に辛い思いをして生きてきたんだろう…

「っ………」
「どうした?大丈夫か?」
熊久保さんの身に起こった事…それを考えただけで涙が込み上げてきた…

「い…いえ…なんでもないです…」
「熊木…さっき俺が言っただろう…『みんな、それぞれ過去が有って此処にいるんだ…』って…家族を失った人…それ以上の苦痛を強いられた人…MERGには大勢いるんだ…」

そう言いながら竜崎さんは僕の体をギュッと抱きしめてくれた…
竜崎さんの温もりが、僕の心を落ち着かせてくれる…

もしも僕がこれ以上の犠牲を防げたら…

そんな事を考えながら家路に向かっていた…