そして…竜崎さんが部屋の鍵をかけた後…
ホンの少しだけこの部屋に沈黙の空気が漂ってた
でも僕には『ホンの少し』の時間が、とても長く感じる…

「まずは…何を知りたい?」

「全て…オイラ達に今起こってる事、全部知りたい」
場の空気の流れを作り出したのは、雫だ…

「せや!アノ夢はなんや?今何処におるん?」
少し感情的に藤間が竜崎さんに問いかけた

「あと…家のAIの認証を変えたのは…誰なんですか?」
僕も思ってる疑問を竜崎さんにぶつけた…

竜崎さんは少しだけ頭を掻き、暫し悩んでいる様に見えたが…
「分かった、順を追って話そうか。
まずは、ここの場所だが…東都西エリアの中にある。詳しい場所は後で渡すから。
そして、君たちが見た夢…恐らく夢の中でもう一人の自分に会ったと思うが」

俺を含めた三人は頷く

「夢の中の自分は変化後の自分だ。夢の中で彼らが光を帯びて消えると、今の自分…つまり覚醒後の自分にも彼らと同じ外見になる と言う事しか分かってない」
「夢の中の僕は、最後に『君に僕の力を全部あげる…使い方は君自身が身を以て見つけられるよ』って言ったんですけど…『使い方』ってなんですか?」
僕は夢で言われた事を聞いてみた

「それは、力の覚醒の事じゃないか?人によって覚醒の方法もバラバラだからな…覚醒するのを待つしかない って言う状態かな」

覚醒…つまり、今の状態では何も出来ない って事か

「竜崎さんは、どんな時に覚醒したんですか?」

「あれは…五年前くらいか…まだ助教授になった頃かな…今の君たちと同じ…この団体に入って少しした位か…今まで仲が良かった人が目の前で殺されてな…その時だったよ…その仲間との想い出が走馬灯の様に頭の中を駆け巡って…気がついたら仲間を殺した奴が、俺の目の前で死んでいたよ…自分が打った魔法攻撃にやられてな…」
少し遠くを見つつ竜崎さんは自分の過去を少しだけ教えてくれた…

「みんな、それぞれ過去が有って此処にいるんだ…」

「……はい」

「最後に…宏太の家にあるAIの認証を変えた人だが…あれはこの団体の人では無い…」

「えっ!?」
てっきり竜崎さんが、やった事かと思っていた…

「俺や君たちを利用して殺そうとする組織があってな…人体実験やクローンを造る為のDNAの採取が目的だろう…
この団体…名前が『MERG
(Mutation Evolution Revolution Group)』は、奴らから守ったり戦ったりする人の集まりだ…」

「戦う…って」
「勿論、君たちは守りたい…その時が来たら、俺は全力で君達を守り抜く…それは君たちが変化する前から心に決めている事だ…
まぁ…MERGの力に居る人が奴らの組織を潰せれば…その為に死んでいった人達への償いにもなるだろうしな…」

窓際に立つ竜崎さん…その姿には…いつも以上に真剣な表情が浮かんでいる

「さて!一応、この階層に入る為の掌紋と声紋のサンプルを取りたいのだが…協力してくれるね?」
「掌紋は分かるんですが…なぜ声紋も取るんですか?」

「階層を言う声も声紋で管理されててな、登録されていない人が言うと『この階層には何もありません』って言う仕組みだ。二重三重にロックしているからな」



そして僕たちは、掌紋と声紋を登録し、この建物の地図を受け取った…

「僕たちは…これから何処で生活すればいいんですか?」

「その事だが…俺達と一緒の生活でもイイか?」
「と言うと?」
突然の竜崎さんの言葉に僕は驚いた

「いや、ハッキリ言って、今まで生活していた家は奴らに既に見つかっていて危険だ…だが、すぐに手配は出来ない状態だし、君達は覚醒していない…覚醒しているMERGの人の家に仮と言っちゃナンだが…どうだ?勿論、藤間は女性の人の家だし…」

確かに、家に帰るのは危険かもしれない…夢を思い出すと、やっぱり能力者の近くに居た方がイイのかもしれない…

「分かりました。お願いします」

藤間と雫も同じ答えらしい

「少し待っててくれないか?」
そう言うと竜崎さんは部屋を行ったん出て行った

十分後…

「お待たせ!じゃぁ、藤間はこの…」
「は〜い!お待たせ〜」
部屋に戻った竜崎さんが喋り終える前に、何処からか声が聞こえた…

「コッチだよ〜」
その声のする方を見てみると…藤間の後ろに一人の獅子族の女性が現れた

「私は『渋谷 奈々(しぶや なな)』 よろしくね!藤間さん」
「は…はい」

「なんでココのヤツらは…はぁ…」
横で竜崎さんが少しため息をついたのが聞こえた…

「じゃぁ、獅島は和樹とで…熊木は、俺とでイイか?」
「えっ!?僕はイイですよ?」

どうやら藤間や雫もイイらしい
「じゃぁ、決まりだな。明日からの事はまた皆に連絡するからな?」
「はい」

そして、僕たちはそれぞれの泊まる場所へ向かった…