「うっ…」

ジャリン…ガチャン

体を動かそうと左右に揺らしてみても、金属製のチェーン縛られていて…動かない…夢と同じ状況だ

暗闇の中で微かに人影が動いているのも見える…姿はハッキリしないけど、確かに誰かが動いている

「だ…誰だ!?」

「ほぅ…気がついた様だな…」
俺を拉致したやつの声…
「なぁ!解け…って言っても解かないだろうナ」
僕がもがく度に、金属がジャラジャラと音を立てている…

「そう、分かってるみたいだな…もうすぐ君の体に変化が訪れるんだ…縄を解くのは私たちにとって危険なんだよ」

「変化?…危険?ずっと見てきた夢といい…一体なんなんだよ!!」
「あと数分もすれば、君自身が身を以て分かる事だ…変化が終われば、私たちの正体を明かし、皆とも会わせよう」



チッチッチッチッチ…
どこかに旧式(アナログ)の時計があるのか…暗闇のなかで微かに鳴り響いている

次第に僕の体に変化が起こり始めたのに気づいた…

「か…身体が…あ…熱い!」
まるで…そう…燃えるように全身が熱くなってきた

「始まったか」
誰かの声が、僕の記憶の中に微かに残っている

そして、次第に僕の意識が朦朧として…もう温度の感覚が分からなく…なって…き…た……



次に僕が覚えているのは…暗闇でどこがどうなっているのか解らない空間…

「コッチだよ」
いつの間にか、僕の目の前に誰かが立っている…

「ようやく会えたね」
君は…僕…でも今の僕とは違う雰囲気が違う気がする

「まぁ、そこにかけて、少し僕と話そうよ」
そういうと、もう一人のが何もない筈の方向を指差す

何も無かった空間に、長いソファーが置いてある
そして二人のが腰をかける…

目の前にはでも、僕はここに居る…
なんだか混乱してきた

「君は…誰?」
「僕は、君…でも今の君とは違うよ」
「どこが?」
「簡単に分かるって言えば…僕の体の一部は君とは少し違う…そんなトコかな」

目の前に居る…その体を下から上に舐める様に見てみる…

「瞳…?」
僕は茶色い瞳…今まで何度も鏡で見た事がある
だけど…目の前に居る『僕』の瞳は…まるで透き通る様な青

「アタリ」

さっき感じた『違う雰囲気』は瞳の違いだけじゃない気がした…

「それで?君は僕に何をするの?」
「少し僕の手を握っててくれる?君に渡したい物があるんだ」

僕は彼の言う通りに、手を彼に向け…彼が僕の手を取った

「少しだけ…目を閉じて心の中を何も無い状態にしててくれる?」
「う…うん…やってみる」

何も考えない…心を『無』に…
今の状況や雫や藤間がどうなっているか…考えたいけど、今は言われた事に全神経を集中する事が大切な気がする…

そして…

目を閉じていても分かる位明るい光が、僕の目の前で光った
それと同時に、僕の手を握っていたもう一人のの手の感触が薄れていく
彼の手の感触が無くなると、光も次第に薄れていき…そして再び辺りが暗闇に染まっていった…

「もう、目を開けていいよ」

僕が目を開けると…目の前に居た筈の彼の姿が無くなっていた

「ねぇ!どこに行ったの?一体僕に何をしたの?」
「君に僕の力を全部あげる…使い方は君自身が身を以て見つけられるよ」

次第に何処からか聞こえていたもう一人のの声が小さくなっていく

「待って!ねぇ、君は一体何者?」
「君は僕であり、僕は君なんだよ…その意味を君は見つけられるとイイね」

そして、僕の意識も…薄れ…て…い……く……


気がつくと、僕はどこかのベットの上に寝かされていた

消毒用アルコールの匂い…何かの薬剤の匂い…ここは…病院?

キィー…

「気がついたようだね。体調はどうだい?」

誰だ…目の前がボヤけていて、誰が入ってきたのか分からない

唯一解るのは、その人が俺を襲った奴と同じ声の持ち主だ って事だけ

「あんた…一体誰なんだよ…」
「見て分からないのか?」

次第に僕の視界がハッキリとなり、目の前に居る人の姿もハッキリと分かってき…た

「り…竜崎…教…授?」
一瞬自分の目を疑った位信じられない…まさか僕たちを襲った人が…大学の教授だなんて…

「ようやく分かったみたいだね。熊木」
「な…なんで僕達にこんな事をしたんですか!全部説明してください!」
「…分かった、これは変化前にした…約束したからな」

竜崎教授は近くにあるイスに腰を下ろし、口を開いた…

「ごく一部の人間…つまり俺や君たちの持ってる体質…DNAの塩基配列の変化…つまり『突然変異体』…まぁこの前授業で話したとは思うけど…」
「確か『長い目で見ると進化の引き金になる得る』でしたっけ?」
「そうだ…で、この変化で俺には…こういう事が出来る様になった」

そう言い終えると竜崎教授は、おもむろに立ち上がり目を閉じた…

次の瞬間、彼が目を開けると…金色だった虹彩が燃える様な赤に変化していたのだ

「これが見た目で分かる変化だ…次は…熊木、俺に魔法攻撃をやってみろ」
「えっ!?」

僕は言われた通り、教授に向かって魔法攻撃を撃つ
「冷(れい)の力よ…我に力を!」
前みたいに上位魔法は出なかったけど…その魔法は確実に竜崎教授に向かって進んでいった

でも、前と同じ様に…竜崎教授には当たらなかった

「これが俺の変化後に授かった能力だ…能力は個人で違うから、覚えておきなさい」
そう言い終えると、竜崎教授は元通りの金色の目に戻った…

「あの…いくつか聞きたい事があるんですけど…」
「なんだ?言ってみろ」

「まずは…教授の変化は、具体的にどういう能力なんですか?」
「俺の能力は、魔法攻撃から自分を守ったり、逆にその攻撃を相手に反射させる事が出来る…ちなみに半径1メートル以内に居る人も守る対象になるからな」

「…なんで僕や雫や藤間にこんな事をしたんですか?それに、なぜ僕の家の生体認証を出来なくさせたんですか?」
「君たちを『ある集団』から守る為に、こうしたんだ…それらについては、ここで話せる事じゃない」
「どうして…ですか?」
「ここは公共の病院だ…誰に聞かれているかも分からない…幸いここにはカメラもマイクも無いみたいだが…ドアの前に誰かが聞き耳を立ててるかもしれない…」

そう言うと竜崎教授はドアの方をジッと睨んだ…ガラスから少し誰かの耳が見えていたが、すぐに何処かへ消えてた

「まずは、他の二人と合流してから、俺たちが集まる場所に行こうか。そこで全部話そう」

僕と教授が廊下へ出ると、病室のドアの前に雫と藤間が立っていた…

「宏太、大丈夫だった?」
「ゴメンな?イロイロ心配かけて…」

「二人とも、僕は大丈夫だよ!また会えてよかったよ」


その後、僕たちは竜崎教授の運転する車に乗り
どこか…見当のつかないビルに入って行った…

駐車場で車から降り、すぐ近くにあるエレベーターに乗り込んだ…

「165階」
”この階層にはパスワードと掌紋認証が必要です”
竜崎教授はパスワードと掌紋認証を入力し、エレベーターは動き出した

やがて、エレベーターの扉が開くと、そこには誰も居ないコンクリートの壁だけの部屋が広がっている…

「ここは…?」
「おい、和樹!どういうつもりだ!」
そう大声で叫ぶと、何も無い空間が…やがて何処にでもあるオフィスへと変わっていった

「ゴメンゴメン!そんなに目くじら立てるなよ〜少しからかっただけじゃん」
そう言いながら柱の陰から出てきた一人の鳥族の青年…僕達と同じ位の年だろうか

「コホン、まぁイイや…コイツが『鷲山 和樹(わしやま かずき)』って奴だ。年は…いくつだっけ?」
「コイツってヒドくないっすか?年は…えぇ〜っと…確かこの前23歳になったかな?」
「年は君たちと近いから、俺以上に話せるとは思うから…。あと、俺の事は『竜崎教授』なんて呼ばなくてイイから」
「じゃぁ…なんて呼べば…」
「皆『竜崎』って呼んでる。ちなみにコイツの事は皆『和樹』って呼んでるし」
「また『コイツ』って…うぅ…」



「じゃぁ、こっちで話そうか」
そして僕たちは竜崎教授…いや、竜崎さんに、ある部屋に通された…

「この部屋は?」
「ただの会議室…みたいな物だ。これからこの建物の施設とか君たちの事等、色々話すからな?しっかり頭に入れておきなさい」

そう言って竜崎さんはドアの鍵をロックした…