竜崎さんのマンションに着く頃には既に日は落ち、辺りが暗くなりつつあった。
僕がフと竜崎さんの部屋を見上げる…
「あ…明かりが点いてる…帰ってきてるのかな?」
なんて事を思いながらエレベーターに乗り込み、昨日と同じ階で降りる。
そして、部屋に向かい歩を進めていると…

「貴様何者だ!どこから入ってきた!」
部屋の前の扉から竜崎さんの怒鳴り声が聞こえてきた。
「アンタには関係ないだろ?『ぼく』はアイツに用があるんだよっ!」
冷静そうに話す声…その声は昼間聞いた様な気がする…それに『ぼく』って…まさか

"指紋認証完了致しました お帰りなさいませ 熊木 こう…"
ドアロックが解除される音と同時に、僕はドアを勢いよく開け、中に急いで入った。
短い筈の廊下が、いつもより長く感じる。
竜崎さんの匂い…そして微かに鉄臭い匂いがする

"バンッ!"
匂いのする部屋の扉を開けると…

「よぉ!熊木」
何故かそこには昼間会った筈の飛田…そしてその足下には
血まみれの竜崎さんが倒れている。
少し意識があるのか…何か僕に言おうとしている。
「に…逃げろ…熊木……」
掠れ声で竜崎さんは言っているみたいだった…
「な…なんで…なんで飛田がココに!?なんで竜崎さんがこんな事になってるの!?」
僕は竜崎さんの言葉を無視し、彼に近づこうとした。僕の力なら治せるハズ!

"パスッ…"
動こうとした瞬間、何かが擦れる音…それと同時に僕の足に激痛が走った。
「ぐぁあああああ!!!!」
痛みの箇所を見てみる…これは…血?
僕は立っていられずに床に倒れ込んだ。
「あ〜あ…動かない方が良かったのに。思わず撃っちゃったじゃん」
飛田の冷静な声、そして何かを楽しんでいる様な表情が見えた。
「お…お前…一体どうしたの…?」
足の痛みを堪えながら、僕は飛田に話しかける。
明らかに昼間の彼とは目つきが違う…

「昼間『バイト』って言ってたけど…あれは嘘♪
本当は、この竜崎とか言うヤツと似た様な奴等をツブす仕事をしてるんだ…『MERG』だっけ?コイツらの団体ってサっ」

少し嬉しそうに話し、勢いよく竜崎さんを蹴った。
ぐあぁあぁーーーー」
傷口を蹴られ、竜崎さんは大声をあげた。
「特殊体質でも痛みは感じるんだねぇ」

「凍牙よ…我に…」
「おっと!止めといた方がいいよ♪」
僕の声が聞こえたのか、床に向けていた銃口を竜崎さんの方へ向けた。
「コイツの命が無くなってもいいなら、使ってみな?」
「ぐっ…」

どれ位経ったのだろうか…僕は飛田のスキを…
飛田は僕と竜崎さんの様子を伺っている…

その時、僕は部屋の異変に気づいた。
棚の上に置いてある写真立て…それが浮いている…
『まさか』と思い、竜崎さんの方を見てみる。
…どうやら彼も気づいていたらしい。

「なぁ…飛田…」
僕は飛田に話しかけた。
「ん?なに?」
昼間と変わらない口調で僕の話に耳を傾けた。
「なんで、こういう事するの?」
「そんなの別に関係無いじゃん!ぼくは好きでしてるんだもん」
まるで子供の様な口調で強く言った。

「ちょっと!私の仲間を傷つけておいて、それは無いんじゃない?」

その瞬間、飛田の背中が激しい炎に包まれた
「熱っっーーーーーーー!!!!誰だ!!」
何も無かった空間から一人の獅子族の女性が現れた…確か渋谷さんだったかな。
「どう?私の劫火(ごうか)?結構効くでしょ?」
これが…最上級魔法の『唱喚破棄』なのか…

「アンタ…私らの事、本気で怒らせると…そのくらいの痛みじゃ済まないよ?」
全身の毛を逆立てながら、渋谷さんは火を消そうとしている飛田に寄って行った。
渋谷さんから、もの凄い殺気を感じる…
「漆黒(しっこく)よ…我に宿れ…」
その言葉と同時に、飛田の周りから部屋中が暗闇に包まれる。
「ちょっと!逃げる気!?」
次の瞬間、渋谷さんの方から次第に明るくなってゆき、元の明るさになった が…

「逃げられたか…」
竜崎さんの言う通り、部屋には僕と竜崎さんと渋谷さんだけになっていた。


「…一体、何があったの?」
僕が竜崎さんと自分の傷を治している所に、渋谷さんは声をかけた。
幸いにも僕の傷はそんなに深いものではなかったみたい…

「俺が帰ってきたら、既にヤツが部屋に居て…『熊木はココに居る?』とか色々と聞いてきてな…渋谷の所に緊急発信しようとしたら…見ての通りさ」
AIの方を見てみると、画面の真ん中を銃か何かで打ち抜かれていた。
「そうだったんだ…私は何か嫌な予感がして来てみたんだけれど…正解だったみたいね」
AIの銃痕を触りながら渋谷さんは、竜崎さんと会話していた。

「そっちは大丈夫なのか?」
「ええ、私の方は大丈夫。蘭さんは和樹との所に行ってもらってるから」
その時、渋谷さんの携帯電話が鳴った。
「はい。……えっ!?そんなっ…」
電話に出て暫くすると、渋谷さんの顔がみるみる青ざめていった。
そして、小刻みに震える手で電話を切る…

「今…和樹から…蘭さんが…消えたって…」
…その言葉に僕と竜崎さんは氷ついた。
「うそ…だよね」
僕の問いに渋谷さんはただ首を横に振るだけだ。
「ねぇ!一体何があったんだよ!」
「詳しくは分んない…だた、和樹が…」
渋谷さんの力ない声…すると、竜崎さんが僕の体を押さえる

「落ち着け熊木!取り敢えず和樹の所へ行こう…行ってみない事には、何も分らないんだからな」


そして僕たちは凄く嫌な胸騒ぎを覚えつつ、鷲山さんの所に向かった…