街頭の大型ビジョンにクリスマスの映像が流れている交差点を歩く僕。
周りは手を繋いでいるカップルばかりだ。
「武蔵ー!待って!歩くの早いよ」
「おぉ、悪いな」
いつも皆の前では名字の「竜崎さん」と呼んでいるけど、二人きりの時は名前の「武蔵」と呼んでいる。

外で男同士、手を繋いでいると周りの視線が気になる と言う事で、僕の手はいつも寂しくポケットの中に突っ込んでいる。
この日は武蔵の提案で、二人の予定を合せて出かける事にしていた。
行き先を一切教えてくれない武蔵の後ろをついて行く。
…人混みを切って歩く武蔵の後ろ姿がなぜかかっこいい。

ついた場所は誰一人居ない公園だった。
「間に合ったか」
武蔵はやけに腕時計を気にしていた。
彼の太い尻尾が、なぜか落ち着きなく揺れ動いている。
なんかあるのかな?
冷えた両手を擦り合わせながら、僕は彼の後ろ姿を見ていた。
「なにしてるんだ?俺の横に来いよ」
近くにあった狭いベンチの砂を払う武蔵。
「うん」
大きい体の二人が座っても壊れないかな?このベンチ。
武蔵の横に座ると、風に乗った彼の匂いが微かにする。

「ちょっと待っててな」
武蔵はその言葉だけ残して公園の外へ出て行った。
そして暫くすると、息を切らした武蔵が戻ってきた。
「こ、これ…持って手だけでも温めて…ハァハァハァ」
そう言って彼が差し出したのは、どこにでもあるココアの缶だった。
「ありがとう」
缶の暖かさより、彼の手の温もりが欲しかったな。
「よーし。そろそろ時間だな」
僕が立ち上がり聞き返そうとした瞬間、薄暗くなった風景が一気に明るくなった。
周りを見渡すと僕たちが居る場所を中心に、辺り一面小さな明かりが灯っていた。

まるで、星の中に居る様。

周りの変化にキョロキョロとしている僕。
「驚いたか?」
「あ、う、うん」
僕は今の気持ちを言葉に出来ないでいた。
「ちょっと目瞑って」
言われるがままに目を閉じる。
指に違和感を感じた。冷たい金属の様な感触。
「よしっ!目開けていいぞ」
ゆっくりと目を開けると、目の前に武蔵が立って僕を見て笑みを浮かべていた。
その笑みの意味を知るのに時間はかからなかった。
違和感を感じた左手の薬指を見ると、指輪が嵌められていた。
何も宝飾のない、シンプルなシルバーリング。
「メリークリスマス。宏太」
そう言うと、武蔵は僕を抱きしめてくれた。
さっきよりも強い武蔵のいい匂いが僕を包み込む。

そうか、今日クリスマスだっけ…

「ありがとう。ごめんね何も用意してなくて」
「いや、俺は宏太に何も出来てないからな。せめてこれだけでも と思ったけど趣味じゃなかったらごめんな」
「ううん、何も気にしないで。僕、今までで一番嬉しい」
そう、嬉し過ぎて涙が溢れそうなくらい。

指輪を眺めていると、文字が彫られている事に気付いた。
I'm always on your side.(俺はいつも貴方の側に居るよ)
「僕もずっと武蔵の側に居たい」
「あぁ、俺もだ」

武蔵も左手の薬指に宏太と同じ指輪を嵌めていた。
だが、宏太がそれを見つけるのはもう少し後の様だ。




fin.